『エロは世界を救う』

「学生の時、友人たちと猥談をしたことを覚えているかい?」

「なんだ、藪から棒に」


 ある国の陸軍基地。一般兵同士が訓練の隙間に、談笑をしている。


「昔、クラスに馴染めなかった僕はお泊まり会で猥談をしたんだ。するとぎこちなかったクラスの空気が柔らかくなり、僕にも友達ができるようになったんだ」

「へえ。それがどうしたんだ?」


 敵国との戦争が激化しつつあるこの地域で、あまりにも悠長な話をする男に一般兵たちは呆れる。だが男はいたって真剣に、


「分からないかい? エロには人を団結させる力がある。この戦争だってエロさえあればすぐに終わるさ」

「なるほど。具体的には?」


 娯楽の少ない基地において、男の与太話は貴重でもあった。呆れながらも一般兵たちは男の話を聞き続ける。


「世界中の誰もが認めるエロを見つけ出す。そして激戦区、政治家、戦争の熱に侵された民衆に見せつけるんだ。みんな戦争なんかしてられなくなる」

「ふうん。ま、偉くなってからやってくれや」


 男の演説が終わると一般兵たちは早々に立ち去る。長い戦いが男の脳を変にしてしまったと思って。


 だが男は諦めなかった。

 どんどん出世した男は、軍の中で世界最高のエロを求めるプロジェクトを立案した。物好きな上層部はこれにハンコを押し、男の究極のエロを求める旅が始まった。


 深い密林、閑散とした荒野、凍える銀世界。七つの海を越えて、男はエロの代名詞ザ・エロとなるべき人間を探した。


 苦節30年、遂に究極のエロを備える人間を見つける。性別を越え、人間なら誰しも性的興奮を抑えることのできないザ・エロ。狂喜乱舞し、男はその人間を迎え入れた。


 世界中にザ・エロの姿を曝け出す。今までつまらない戦争に明け暮れていた人たちは、ザ・エロを見て我にかえる。ザ・エロの魅力を語り合い、肩を組んでザ・エロを讃える歌を歌う。世界が一つになり、争いがついえた。男が追い求めた平和が遂に完成したのだ。


 だがある日、各国に武装した勢力が現れた。驚いた男は武装勢力のリーダーに会談を申し込んだ。


 何故ザ・エロがありながら争うという気になったのか、リーダーに問い掛ける。するとリーダーは烈火のごとく怒り、


「3次元の人間なんかに興奮するか」


 と言い捨て、席を立った。男が次に取りかかった仕事が世界最高のエロ漫画家探しだということは、言うまでもない。

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