『夢見るニート』

 夢を見ていたい。暗い自室の中で、タダ飯ぐらいの男がそう呟いた。この狭い世界でやり尽くせるほどの娯楽はやり尽くした。毎日毎日が同じことの繰り返し。そんな退屈な暮らしが嫌だったから、こんな社会不適合者になったというのに。


 男は夢の中に非日常を求めた。夢の泥沼に溺れて、幻の快楽を得続けることのどれほど魅力的なことか。甘美な怠惰に惹かれ、男は自分を夢の中に送ることを決意する。


 決断すれば行動は早かった。早速心理学を学び、夢の研究を進めた。恐ろしい執念で、男は心理学の権威すら一目置く心理学研究家になった。次に男は工学を学び、脳に直接訴える電磁波の開発、生きていくために体内で必要になるエネルギーを調べ上げた。


 構想1日、実行努力20余年、男は遂に自身の求めた機械を完成させた。脳を騙し、寿命が尽きるまで意識を夢の中に置く、世界的大発明だ。男の発明は世界中から注目され、誰もが賞賛した。


 20年もの間、退屈な現実世界に居続けた男は早速夢の中に潜ろうとする。苦節20年、男の夢が遂に叶う。高鳴る胸を抑え、開発した機械を使おうとする男の前に、白衣を着た連中が現れる。連中は真面目くさった顔で、


「教授、貴方の天才的頭脳を是非これからも人類の発展に使っていただきたい。」


 と言い、嫌がる男を研究施設に連れ出した。天才的発明を成し遂げた男の人生は、眠る暇もないほど充実したものとなった。ただし、充実したのは男以外の人物であることは確かだ。

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