劉裕という剛勇無双のゴロツキがのし上がっていく、
破天荒で痛快でスリリングな国盗り武勇伝である。
語り手である丁旿の口調が軽妙なヤクザ風なので、
劇画タッチの不良漫画みたいな「絵」が頭に浮かぶ。
丁旿ら昔馴染みの間で、劉裕は「寄奴」と呼ばれる。
2人や仲間たちは流民の家柄でろくな仕官先もなく、
そもそも彼らの町も国も荒れ放題、国と国は戦続きで
まさに弱肉強食の様相を呈している。乱世だった。
中国史において五胡十六国時代と呼ばれる頃の出来事だ。
が、年号の把握だの官制の理解だの漢名の書き取りだの、
世界史の授業で頭を悩ませたような面倒事は放り出して、
とにかく、ゴロツキの成り上がり武勇伝を楽しめばよい。
龍に食われ、丁旿と劉裕の間に不思議な縁が生まれる。
その異才は2人をどんな高みへと導いていくのだろうか。
優男風で食えない崔宏が異彩を放っていて、惹かれる。
敵が手強ければ手強いほど、展開が楽しみになるものだ。
続きも楽しみにしています。
丁旿という男の視点から寄奴(劉裕)がのし上がっていく様を語る物語です。
舞台は五胡十六国時代の中国なのですが、知識がなくても、荒れ放題の中国の町、北方から迫りくる強い異民族の軍団、己が腕を頼りにのし上がっていく漢民族の漢たち――男たちの熱いドラマが展開されていくのをはらはらしながら見守っているうちに読み終わってしまいます。
硬派な歴史小説!というより、青年誌に載っているハードボイルド漫画のノベライズのような雰囲気で、とても読みやすいです!
とにかく、出てくる野郎どもがみんな魅力的です。
私は特にトゥバ・ギと崔宏の主従コンビがお気に入りで、ひょっとして最後は彼らがラスボスとして立ちはだかるのでは!?と期待しているのですが――主人公の劉裕はもちろん、トゥバ・ギといい仲間たちといい、強い男たちが戦場でぶつかり合うのは圧巻ですね。
劉裕一人がいくら強くても軍隊が動けば個人の武勇が活きてこないこともあるのだ……それが悔しくもあり面白くもある。
臧熹少年の成長物語もちょっと楽しみです。この荒れ放題の時代ではたしてどんな男に育っていくのか?
地の文は基本的には丁旿のぶっきらぼうな語り口調で進んでいきますが、将軍たちの中には中国史ならでは(?)の美しい漢文体の台詞もあり、いろんな角度から楽しめます。
続きも楽しみにしています!
劉裕が龍に選ばれし覇者になるまでずっとついていきます。
(最新話3-4まで拝読してのレビューです。)
三國時代を統一した司馬炎の晋、
短期間に河北を失って呉の国都であった建康に
遷り、史上に東晋と呼ばれることになります。
この時、琅琊王氏の王敦、王導の協力があり、
さらに、江南は孫呉の頃から豪族が力を持ち、
その結果として東晋は後漢と同じく豪族に
支えられる連合政権という形になります。
この基盤が孫呉、東晋から宋、齊、梁、陳と
つづき、350年以上つづく六朝貴族社会を
形成したわけです。
当然のように門閥主義、あたりまえに貧富の
格差が極限まで拡大された江南にあって、
寒門と呼ばれる低い身分から帝位に即く人間が
現れるとは、一体誰が予想できたでしょう。
それを成し遂げたのが本作の主人公、劉裕です。
本作では丁旿、または白髪と呼ばれる劉裕の
影が狂言回しを務め、五柳先生こと陶淵明に
昔語りをする形で劉裕が語られます。
冒頭から白髪の運命に息を呑むかも知れません。
これまでの中国歴史小説との肌触りの違いに
戸惑うと思いますが、語り口は軽妙かつ伝法、
深刻には陥りませんから慣れればサクサクと
読み進められるはずです。
進むにつれて中国史の別の表情が現れます。
まだ若い丁旿が白髪になった理由は歴史の
推移に深く根ざして劉裕の活躍とともに
本作の主旋律を奏でます。
それに副旋律となる様々な人々が相俟って
物語は江北から江南、河北へと広がります。
注目すべきは河北を跋扈して江南をも窺う
異民族たち、何も考えなければ史書に記載
される漢字で表記されますが、カタカナで
表記して読者に違和感を与えます。
識字率100%と言っても過言ではない現代では
考えにくいですが、当時の人々の大半は文盲、
韓陵という地名が同じ音の寒陵と記されるなど
日常茶飯事、音だけあって字を欠いたのです。
これは中国歴史小説の愛好者にとって賛否が
分かれるかも知れませんが、漢人と異民族が
同じ文化にあったかのごとき誤解を避けた、
自覚的な処理として評価するべきと考えます。
なお、かの崔浩先生の御尊父・崔宏も不気味な
存在感で物語に薄気味悪い色を添えております。
中国歴史小説好きは必読、と言って
よろしいのではないでしょうか。