謎と狂気と怪異が蔓延る文倉市を舞台にした、オカルト群像劇。

 まず、一話一話の濃度がとても濃いです。
 それは登場人物の独特なキャラクターであったり、謎めいた話運びであったり、一筋縄ではいかない怪異であったり、澄ました狂気であったり。
 飄々とした語り口で綴られる物語は、単なるホラーではなく、ミステリーとしても上質なものも。主人公、坂上の独特でシニカルな目線が、語り部として淡々としているにもかかわらず、どこか魅力的に思えるのも、文体の良さが起因しているのだと思います。
 話によってはかなり飛躍した怪異も出てきますが、それが日常の風景の域を出ていないのも”文倉市”という特異点じみた舞台を際立たせている。
 また、時折現れるオカルティックなサイコパスや、狂気じみた人間も描写が素晴らしく、魅力を放っています。澄ました文体のグロテスク表現も素晴らしい。
 これから綴られていく百物語も、とても楽しみな作品です。