文倉佰物語

深知識乃

000 懐疑性アナロジー

■ 0


 世界は怪異に満ちている。


 都市伝説、怪談、民話、伝承。様々に語られるそれらは、現象であり、物品であり、人であり、霊魂であり、妖怪であり、事件であり、魔術であり――各々の姿を持っている。それらは人知を飛び越えた先にあり、ぼくたちは、怪異に触れることでただぼくたちの矮小さを突き付けられるにすぎない。

 多くの人は尻込みし、手を引いてしまうような有象無象。

 けれど、それら怪異に触れ続ける者もいる。ごく少数だが、確かにいる。彼ら彼女らについて、ぼくが抱く感想はただ一つだ。

 自ら怪異に慣れ親しむ人間は頭がおかしい。自ら怪談を蒐集する人間なんて、心の螺子ねじが外れている。自ら怪奇を覗き込む人間なんて、既に怪奇に飲み込まれてしまっている。


 つまり――


 これはぼくの友人が語った、友人の見聞きした物語だ。友人が見聞きした怪異譚。友人だけが語り部の佰物語。最初から最後までたった一人の手によって綴られる佰物語だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る