読了から数日経って、本当に今更なのですが、自分なりに解釈が纏まったのでレビューを書かせていただきます。
作中、主人公と彼女の思い出は、ちょうど走馬燈のように足早に駆け抜けていきます。
J-POPを皮肉るような一節がありますが、読んでいる心地としては、メルヘンチックな歌を聴き流しているような感覚でした。
そこまではいいのです。
それだけならば、僕はこの作品にここまで取り憑かれることは無かった。
最後に放り投げるようにして手渡された言葉が、あらゆる可能性を孕んでいて、そして、それをきな臭さすら感じてしまうくらいに、明け透けに漂わせているので、僕はこの言葉を、この物語をどう解釈すればよいのかとうんうん頭を悩ませました。
自分なりの解答には辿り着いたつもりです。
それをここで吐き散らすということはネタバレに直結し、あまりにも野暮な行為だと思うので、控えさせていただきますが……
してやられた。そんな気持ちと同時に溜息が出そうなくらい今はすっきりしていて、素敵な読了感に浸っております。
未読の方はどうかご一読を。
そしてこの物語の、しこりのように引っかかる違和感と向き合い、思い切り考えてみてはどうでしょう。
「死ねばいいのに」と言われてそうそう死ぬ人はいない。ごもっとも。
「死ぬほど苦しい」だけどそれで死ぬ訳じゃない。ただの副助詞で比喩表現なんだから。
死ぬほど苦しくて、そう約束したにもかかわらず、それが出来なかった主人公はきっと死にたくなかったんですね。でも罪悪感からそう詰め寄る幻影を作り出していたのかもしれません。
確かに作り出したのは自分の都合が良い幻影かも知れませんが、もし現実に存在していてもそう言って発破をかけていたかもせれませんね。
夢でも妄想でも、そうやって出て来てくれるなんて羨ましい限りです。
そしてその言葉があったから、彼は最後まで彼女に会う事が出来なかったのかもしれませんね。
タイトルに反して、とても心温まるお話でした。
「死ねばいいのに」という言葉は、世間ではあまり歓迎されません。とはいえ、他人について評するとき、この言葉を我々はついつい使用してしまいます。そのような言葉である「死ねばいいのに」から始まる物語で、結末がどうなるのか楽しみにして読み始めました。
真に迫っていたと感じた場面は、一日経って起き上がった後のところです。そうだよね、健康的な人間ならこうするよね、という描写が続きます。とても素朴な場面ですが、それゆえに現実感があります。
最後の一言はコンクリートのように固く、打ち捨てられています。それまでの部分を温かく読んだ読者には冷水を浴びせ、「なんでぇなんでぇ、そんなんアリかよ」と読んでいた読者には溜飲を下げる隙間を与えてきます。どんな人が読んでも、読み終わった後にちょっと手を止めて考える時間を取らせる文章です。ご一読をおすすめします。