『物語』で興味を惹ける作品。大事はいらない、大切なのは心だ。



 多分、作者はこう思ったことだろう。

「なぜ閲覧数があがらないのか」と。

 私も思うのだ。
 もっと読まれてもいいのではないか、と。


 この作品の一番の魅力は、話の筋道ではないだろうか。よく練られていて、先が読みにくく、ファンタジーに必須なわくわくする気持ちが揺さぶられる。やや鬱展開ではあるが、ハッピーエンドが待っている。
 この作品は大人でも楽しめるが、激しい展開のない万人向けの作品である。細かく見ればさほど珍しいストーリーではない。だが、世に溢れるストーリーを独自のセンスで選び出し、つなぎ合わせることでオリジナルを作り上げる。読者の気持ちをストーリーに乗せながら読ませる展開は、目を見張る物がある。
 一つ一つのシーンで興味が引かれるのだ。

 特に伏線の回収……いや、小さな話題を後々にも絡ませるセンスはすばらしい。伏線というのは、伏線とわかった時点で魅力が減じてしまうもの。かといって、伏線と思わせないような伏線を張る技術は、かなりの才能を要し、プロですら苦戦しているのをよく見る。
 その点、この作品では、話題を伏線という重要な鍵に加工せずに、普段使いのままで後々登場させるのが非常に上手いのだ。「ここで、このネタが生きてくるのか」と思わず唸ってしまう。
 決して、すべてが重要な話ではない。逆にだからこそ、自然に組み込むことができる。筋書をよく練った賜だろう。

 状況説明が巧み。
 それほど描写に長けているわけでもなく、説明文がずば抜けて上手いわけでもない。だが、巧みだと思った。
 最初に違和感を感じたのは、使役する動物を買う場面。店の中での描写だった。ああ、違和感と書いたのは、私は良いところも悪いところも、最初は違和感として感じるためだ。
 この作品は文章が少ない。空白が多いので文字数は多く数えられているものの、読んでみればそこまで長くは感じない。
 そんな特徴を持つ文体だが、少ない文章量で必要な描写だけを描き出しているため、想像させるには十分な量だった。スムーズに場面を読ませる。これも作者のセンスが問われる技術だ。
 私は好んで事細かく描写する方で逆にはなるが、スムーズに読ませるこの技術を欲している人は多くいるのではないだろうか。
 同時に、空想世界の仕組みの説明が上手いとも思った。どのタイミングで説明すればいいか、これは皆失敗した経験があるだろう。冒頭で説明を入れて指摘を受けた方も多いのではないだろうか。
 特にファンタジーは、説明が難しいものなのだから。



 ただし、面白さがわかるのは、少し先へと進んでからだ。これは注意して欲しい。
 もちろん、導入部分も無ければならないもの。それは間違いないのだが。
 多分、第一章の主人公の葛藤で読者を逃がしてしまっているのだとは思う。ただ、その話はここではなくコメント欄に書いておこう。ちなみに、長いからという理由ではないと、私は考えている。


 面白い。それは間違いない。
 意欲的な作者だ。物書きとして学ぶ点も多いだろう。
 ぜひ、多くの方に試して欲しい一作品。


written by  佳麓冬舞の一人目 純佳