第5話 依頼完了

おっさんの荷物を降ろし、ギルド職員に事後処理をまかせるとギルドへ戻ってきた。


とっぷりと日が暮れたので、イヤリングの効果も終了し肌の色も元通りだ。


ギルドに到着すると、正面でなく少し横にじゅうたんを着陸させる。並びには馬車が数台駐車してある。


じゅうたんに魔力を注ぎ、収納魔法陣を展開してかばんを二つ引っ張り出す。


ひとつは依頼品専用のかばん、もうひとつは空だ。


それぞれ肩に引っかけると、今度はじゅうたんを端からくるくる巻いていく。巻き終わったじゅうたんの端を空のかばんに入れると、そのまま反対側まで一気に納める。空のかばんはじゅうたん専用の収納魔法かばんなのだ。かばん二つで俺の全財産が収まってしまう。このかばんは軽いのやら重いのやら……




窓口には順番待ちが数名。大人しく待つ。



「次の方どうぞー。あ、ヴィリュークさんお疲れさまです。あの人大丈夫でしたか?」若い女職員が聞いてくる。


「ああ、先生が大丈夫って言ってたからそのうち回復するだろう」


「あーあ、私も空飛ぶじゅうたんに乗りたかったなぁ」


「砂漠で行き倒れていたら乗せてやるよ」


「えぇーっ、それって絶対無理じゃないですか!」声のトーンが上がっていく。


「乗せないとは言ってないだろ。そろそろ仕事の話をな…」苦笑しつつ催促する。いつものお決まりのやり取りだ。




おもむろに、かばんから荷物を引っ張り出す。


「リストがこれだ。手紙が56通、確認してくれ。そのうちの5通が速達だから明日の昼間まで配達を頼む」


リストに従って、数と宛先をチェックしていく職員。紐でくくっているから上から順番に確認していくとすぐだ。


「こっちの袋は何ですか?」小ぶりな袋が二つ残っている。


「あぁ、別件の依頼品だ。まとめて引っ張り出してしまった」いそいそと仕舞い直す。


「ひょっとしてまた種とかですか?」


「まぁな」特に秘密にしてはいないが、噂はいつも流れていくものだ。


「配達完了確認。タグをお願いします」決まり文句に対して、首から下げていたタグを、窓口横にある魔法陣が刻まれた金属板に乗せる。


”ポーン”


「っっっ、音が鳴った!」


「ふふ、ヴィさんのそんな顔初めて見ました。正常に更新されると今みたいな音が鳴るんです。異常の場合は別の音なんですよ」俺の反応が珍しいのか、すごく楽しそうな職員。


「音が鳴るだけだろ?意味あるのか?」


「あら、正常に作動している確認ができて地味に便利なんです。新人のミスもすぐわかるので対応しやすいんですよ」と、得意げに説明してくる。


「ふーん…」過剰反応すると負けた気がする。


「次の便は半月後ですね。また宜しくお願いします」


「じゃ、また」手を上げて合図すると定宿を目指してギルドを出ていく。






定宿を目指していく。街灯が昼間吸収した光を緩やかに放出し、道を照らす。その歩きなれた道をてくてくと行くと見慣れた看板が見えてきた。


”◯”名前も何にもない。丸い木の板を白く塗っているだけ。あれを見ていつも思うのだ。


”誰か真ん中に黒丸を塗ってくれ。塗ってくれたら、そこ目がけて射抜いてやる”と。


エルフ並みの腕がない俺でも、人並みの腕はあるつもりだ。お決まりの妄想を振り払って、店の扉をくぐる。


”おかみさーん、部屋あいてますか?”


”あらヴィリュークさん、あいてますよ。夕飯どうします?”


”お願いします。あ、埃を落としたいので少し後で頼みます”


”部屋のカギはこれねー、食事の時は声かけてー”


あぁ、やっと一息つける。

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