第4話 行き倒れ目を覚ます

さらりとした感触に気付く。

砂の感触ではないし、底冷えする寒さも、身を焦がす暑さもない。

どうやら寝台に寝かされているようで、照明の薄明かりに部屋の様子がうかがえる。

その照明の下に俺の荷物がひとまとめに置いてある。……運送依頼で預かったかばんも無事だ、とぼんやり考えてハッとする。


「納期!」


駆け寄ろうとするが足に力が入らずよろけてしまう。手をついたのだがこれまた力が入らず、勢いをそいだだけで音を立てて頭から床に転げ落ちてしまった。

「なにやっているのですか!」戸口から女性の声が聞こえる。

「今日は何日だ!」反射的に尋ねる。

「おちついてください。あなた、行き倒れで運ばれてきたんですよ」

「いいから今日は何日って聞いてるんだ!」納期に間に合わないとあいつに認められない!

「16日の夜です。峠は越したと先生が言ってましたけど、安静にしなくてはいけないのは確かなんです。さぁ、手を貸しますから横になって休んでください」

「間に合った……」俺はホッと息をつくと、言われるがまま寝台に横になる。

「少し水分を補給しましょう」女性がコップに水を入れ口元にあてがってくれると、俺は喉の渇きを思い出したように水を一気に飲み干すが、半分しか入ってなかった。もっとくれと恨めしそうな目で女性を見る。

「あなたのようなひとは水をがぶ飲みしますからね。ゆっくり飲むと約束するならもう一杯あげます」

カクカクと首をふりコップを差し出す。

水の入ったコップを貰えばこっちのものだ。ぐいっと一気にあおる。……さっきよりもっと少なかった。三分の一位しか入っていない。

空のコップを取られた。水を注ぐ音がする。ギギギと顔を横に向けると、笑顔が見えた。

「言う通りにゆっくり飲みますか?それとも物理と魔法で一週間ほど寝かせてあげましょうか?」目が笑っていない。

「……ゆっくり飲みます」

「よろしい」

今度はなみなみと注いであった。



ちびちび飲みながら礼を言う。

「助けて下さってありがとうございます」

「どういたしまして。でもお礼はここに運んでくださった方に言ってくださいね」

と言われて、ぐるりと改めて部屋を見渡す。

「えーと、ここは?」

「救護院ですよ」よくよくみると彼女は首から聖印を下げている。普段着だからシスターとは分からなかった。

「特急便のじゅうたんで運ばれてきたんですよ。運が良かったですね」と、シスター。

「え?とっきゅうびん?はこばれてきた?」血の気が引く音がした。やべえ、救助料なんか払ったら今回の儲けどころか赤字じゃないか。額から嫌な汗がにじみ出てくる。

「なにを想像しているかなんとなく分かりますが、大丈夫ですよ。今はゆっくり休んでください」コップを回収され寝かさせる。


「昼前にギルドの方が見えられるそうなので、依頼とか心配事は相談するといいですよ」

今度は照明を落とされて暗闇になる。今後の身の振り方について思いを巡らせていたが、いつの間にか寝てしまった。

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