第3話 搬送

まだ日が沈んでいないので、道には人の流れがある。これではスムーズに搬送できないので声を上げて道をあけてもらう。


「道をあけてくれ!行き倒れなんだ!」


さーっと人波が割れていき、そこをリディとじゅうたんを引いて小走りで進んでいく。


”すまない”、”ありがとう”など声を掛けながらギルドを目指す。


その甲斐あってかギルドには五分ほどで到着。丁度ギルド前には見習いの小僧がいたので声をかける。


「行き倒れのリディだ。預かっておいてくれ、世話もよろしくな」


びっくりしている小僧に有無を言わさず手綱を押し付けると、じゅうたんを引き連れたまま内部に入る。


「行き倒れを拾ってきた!救護院までじゅうたんを飛ばすから、誰か付き添いを頼む!」




日暮れ前とあってカウンターには人が列をなしている。


”少々お待ちください”とカウンター内部で軽い混乱が起こるが、それもすぐに治まった。


20代後半の男の普人が出てきた。背後にはふくれっ面の若い女性職員が数名。


この騒ぎにかこつけて俺のじゅうたんに乗りたかったのだろう。知ったことではない。


”急ぐぞ” 職員に声をかけると、俺はじゅうたんの前に、職員はバランスを取って後ろに座る。


ここまでくれば道など関係ない。じゅうたんへ一気に魔力を注ぎ、高度を上げるとすぐに方向を確認。


視界の端に救護院の屋根を視認するや否や勢いを上げる。勢い余って振り落とすなどそんなへまなどしようもない。


クン、クン、と勢いを殺し救護院の中庭に着陸。ほぼ同時に職員とじゅうたんから降りると声を荒げる。


「先生!シスター!、誰かいるか?行き倒れを拾ってきたから診てくれ!」


勝手知ったる救護院。診療室へおっさんを運ぶ。


診療台の前までじゅうたんを移動させ、職員と力を合わせておっさんを台へ移動させる。




「あなたが来るといつも騒がしいですね」ぷりぷりしながらシスターが登場。


「急患なんだ、仕方ないだろ?死んじまったら元も子もない」


「……確かにあなたが運んだ患者さんが、手遅れになったことは一度もないですが…」独り言ちる。


「頼りにしているよシスター」営業スマイルを一発。


ふくれっ面をしつつも顔を赤らめるシスター。そこへ…


「うちの子をあまりからかわないでもらえるかなぁ」と、医療器具を運んでくる中年普人男性。


「失敬だな先生。ここの診療所を信頼しているからこそ、最短時間で搬送しているんだぜ」と反論。


おしゃべりしても手は動かす。容体をチェックし終わった先生は…


「うん、初期治療は万全だねぇ、あとはこちらに任せて。彼は助かるよ」




…ふう。一息つけた。



「じゃ、おっさんの諸々の処理はギルドで頼むよ。俺の仕事の処理もしないとなぁ…」


旅の疲れを癒すのはまだ先らしい。

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