第10話 独演会


いいですか、ヴィリューク君しっかり覚えるように。この国の建国はおよそ400年ほど前です。


正確には180年ほど前に一回、王都が砂岩と化して滅亡の憂き目にあいました。その際、ほとんど全ての王族と官僚も一緒に死んでいるので、180年前に建国された新しい国と考えて差し支えありません。


滅亡の原因ですか?それはその当時の国土に関係があります。現在砂漠は国土の半分を占めていますが、その当時は八分の一程度だったのです。


半分は平原や森、山は国境まで行かないとないのは今と一緒ですね。森には我々エルフがいましたので、開墾可能な場所は微々たるもの。


となると、残り八分の三を占めていた荒野をなんとかしようと考えるのは当然ですね。当時の王都から半日も歩けば荒野が広がります。


乾いた大地でも、地道に耕し種を蒔いていけば今頃はいい結果がでていたでしょう。




”セツガさんえらく饒舌じゃないですか”


”あんたが入れたスイッチがこれよ、終わるまで付き合ってもらうからね”




そこ、おしゃべりしない!


えー……当時、それなりの結果は出ていたのです。植える作物を吟味し、土地改良を模索し、多少波はありましたが順調だったのです。


しかしそのノウハウも全て失われてしまいました。


そのまま進めていればよかったものの、国の主導で別のプロジェクトチームが結成され、魔法による緑化の加速を指示された所まで記録は残ってます。


そうして立ち上がった計画は複数の精霊を融合させて、その力で土地を短期間に改良するというものでした。




結果は失敗です。原因は人造精霊の暴走というのですから、始末に負えません。なにをどう考えて制御できると思ったのでしょうか、理解に苦しみます。


暴走の原因は諸説入り乱れて、現在でも分かっていません。一番有力なのは、融合ではなく一体の精霊が他の精霊を取り込んだせい、と言うものです。


なんとなく察しはつくでしょう。砂の精霊が他の精霊を喰い、暴走したと考えられています。砂岩と化した王都とは旧王都です。


現王都は昔は衛星都市でしかなかったのですが、庶子である王子が一人暮らしていたおかげで血統は途絶えませんでした。普人たちにとっては歴史でも、我々エルフにとってはちょっと前の話ですね。


うちの親父によると、えらく”やんちゃ”だったそうです。窮屈な首都よりこっちの町の方が性に合っていたらしく、冒険者まがいのこともやっていたそうです。王族の暮らしが嫌で逃げていたはずが、国のトップに据えられるとは運命とは分からないものですね。


え?その後の人造精霊?


これは記録が残っています。近隣諸国から戦力が集められました。当然でしょう、人造精霊はゆっくりですが移動しながら進路上のものを砂に変えていきます。


時間が経てばどうなるか、推して知るべしです。


およそ知られている全ての系統の魔法使いが召喚された結果、現在我々のいるこの現王都の手前で進行を阻むことが出来ました。


それでも人造精霊を滅することは叶わず、この砂漠のどこかに今でも封印されているのです。




しかし封印できたからおしまいという訳にはいきませんでした。


人造精霊の出現時、急激なマナの減少により……やつが消費したのでしょうが……歪ひずみともいえる気象の変動がありました。


マナが元に戻るまでに数年、気象変動が元に戻るまでに10数年です。食糧危機など大変だったとこれも当時の記録が残っています。


様々な問題に一区切りつけるのに、20~30年かかったと言います。区切りがついたとき、国王陛下……ええ、やんちゃな庶子の王子様です……が砂漠緑化を命ぜられたのです。


「砂漠化を止めよ」と。そして「より良い形に緑を増やせ」とも言われました。


郷愁の思いがあったかは定かではありません。少しづつではありましたが砂漠も拡大し、砂は風に乗り国土全体で観測され問題となりました。エルフの森も例外ではありません。


切っ掛けは街の人々です。昔の光景を忘れられない人たちが、緑を増やそうと足掻いていることを、知ってしまったのです。


微々たるものですが、国中から有志が集まっていたのです。



努力の結果草が生えて喜んだのも束の間、翌日には家畜に食われる。

むきになって家畜が緑化地帯にはいらないように、長い長い柵を作る羽目になりました。


畝うねを作って植物を植えても、しばらくすると砂に埋もれる。ヒトの手はいくらあっても足りません。



しかも、管理し継続するには街の人々にも限界があります。


ここまでくればオチは分かるのではないですか?えぇ、想像通り国が事業を引き継いだのです。それがこの研究所の前身という訳ですよ。



ガンゴーン ガンゴーン ……



おや、もうお昼の鐘ですが。




”あ!!俺まだ配達が残ってるのでこのへんで!セツガさん、姉ちゃんのこと宜しくお願いします。じゃ!”


”あああ、あの子ったらぁぁぁ……えーえと、私たちはお昼にしましょうか”



むぅ、しかたないですね。お昼は何食べましょうか……


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