第14話 種明かし・今後の方針
わっしゅわっしゅと頭を洗っていく。
頭皮をじっくりと蒸らしお湯を数回替え、髪も梳かすように洗っていく。
生え際までは洗ったが……木桶に新しいお湯を溜めると、声をかける。
「顔は自分の加減があるだろ。新しいお湯だから洗っちゃいな」と彼女に声をかける。
桶の前までにじり寄ると、温度を確かめるようにゆっくりしっかりと洗顔していく。
「……ありがと、ございます」小さな声でお礼を言ってきた。
「おう、美人さんになったな。これで顔拭いて髪も乾かしな。で、本名はカミーユでいいのかな?」大振りな布を渡し、俺は薬箱を漁っていく。
「ええ、そうです。カミーユと言います…単純でしたか?何時気づいたんでしょう?」髪の水分を取りながらカミーユが問いかける。
「そうだそうだ、俺なんか全然気づかなかったぞ」今まで空気だったエルネストさんが声を張り上げる。
「顔つきや体型はどちらとも取れたな。それらがハッキリ現れる年ではないってことで気にはしてなかったが。まぁ、雰囲気でどっちかな?って疑問は持った」
二人とも、ふんふんといった感じで聞いている。
「違和感を覚えたのは身体の水分の温度かな。男女の区別がつかなくて悩んだけど、首元を洗ったときはっきりした。」
エルネストさんは自分の喉元をさすってピンときたらしいが、カミーユはまだ分からないようだ。
「男の喉元には骨みたいなものが隆起してるんだ。水操作で皮膚表面の状態は分かるからね。見た目ではわからなくとも触れてみれば分かるものさ」
と言って、ちょっと拙いことを言ってしまった気がする……なんというか、墓穴を、とか……
「ん?てことは操作している水はヴィリュークの手と同じってことか?……ああーっ!!てことはカミーユの肌をすりすりして堪能したとか!胸を執拗に洗って感触を確かめたとか!!」エルネストさんが…いやこのおっさんはいらんところで敏さとくて始末におえん。
「こんのエロおやじ!性的なことはやっとらんわい!この非常時に、んなことやるか!」
「そういえばお湯が胸元まで登ってきたかも……」カミーユが茶々をいれてくる。
「……冗談でもこのタイミングでは勘弁して」
「あはは、すみません」この子、将来大物になるわ……
「で、そもそもの原因だけどさ。えー、と、月の物だろ」ちょっと言いよどんでしまった。
「う、え、あ。はい、生理きてます」
「推測するに、ガイドをちゃんとできるかって不安からくるストレスと、親父さんが倒れた心配と、生理の体調不良、砂漠の過酷な環境が相まって倒れたんだろう」
「カミーユ、お前さん自分が思っている以上に疲れてるんだよ。今日は移動しないから体調を回復しろ」
「いや!でも!」
「エルネストさんの言う通りだ。明日早起きすればいい。今は少しでも眠れ」
しばらくするとカミーユの寝息が聞こえてきた。ここはじっくり身体を休めてほしい。
ここからは大人の時間だ。
「エルネストさん明日のルートなんだけどさ、確認だけど通常ルートで間に合うんだよな」
「え?近道通れば余裕だよ」不穏な空気が……
「んな!普通往復でも余裕を持たせて日程組むよな!!?!」
「まぁ往路で時間食っちゃったけど、復路は今通ってきた道で更に近道使うから短い時間でいけるから大丈夫だよ」
「それはあんたの主観だよな。ガイドの彼女が言ったわけじゃないよな……」
「そだねー。彼女は言ってないかな」
「のんきな予定を立てるな、普通に考えれば間に合わないぞ」
「いやいや、間に合わないと信用が……」
「おっさんの商売の信用はどうでもいいんだけど」
「いやよくないし、いきなりおっさんて!さっきまでさん付けだったよな!」
最近ため息ばかりな気がする。
「近道って渓谷の谷間を通っていくんだろ?」
「なんだ知ってるんじゃないか。むかし通ったけど、あそこ使うと日程の短縮できるんだよね。最近は治安が…ぁぁああー」
「なんでそこまで鈍いかな。彼女の親父さんの矢傷も、あそこの盗賊のせいだって気付けよ!おっちゃん!」
「しまった、どうしよう」こちらに視線で訴えかけてくる”おっさん”。もう名前で呼んでやらんわ!
「おっさんだけだったら見捨てて迂回ルートにさせていたな。だけどここまで拘わってきちまったからには、カミーユに違約金を払わせてたまるか!」
「きゃーヴィーさーんかっこいいー」……棒読みが腹立つ。
「ちっ、こき使ってやるからこっち来い」といってじゅうたんへ進む。
じゅうたんに魔力を注ぎ明日の準備を始めよう。
展開した魔法陣から座布団大の平ぺったい箱が出てくる。
「じゃ、おっさんここに座って」言われるがままに座るおっさん。
「おっさんじゃなくて名前で呼んでほしいかなーって……で、これなに?」
「無計画な輩はそれで十分。で、それはマナ変換機兼魔力貯蔵庫。明日はじゅうたんをぶん回すだろうから、おっさんの魔力を直接貯め込むのさ。空っぽにしても一晩寝れば回復するべ」うえぇぇー、なにそれー。とか抗議らしき声が聞こえるが気のせいだ、そうに違いない。
しかとしながら、今度は収納陣から盾を三枚引っ張り出す。それぞれ形状が違う盾だ。
「しばらく使ってなかったからなぁ。大丈夫だとは思うけど……」
★☆★☆
うわぁ、またやっちまった。
場合によっては違約金全額負担するか。見通しが甘かったのは俺のせいだし、彼女の家に払わせるのは良心が咎める。
ヴィリュークに無理させるわけにもいけないし、分岐点に近づいたら遠回りしよう。
嫁さんは怒るだろうけど、最後には分かってくれるさ。
自分のせいとはいえ、商売は順調って訳にいかないなぁ。
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