第13話 ちょっと身綺麗に
近寄って見ると掘った砂の上に毛布が敷いてあり、その上でカミーグが横たわっていた。
心配そうに、横でリディが落ち着かない様子できょろきょろしている。
熱せられた砂も、ちょっと掘れば冷えている。野営用に持ってきていたのだろうか、別の毛布の端が棒に括り付けられており、その高さでうまく日影を作っていた。
「どうしたんですか?」様子を聞かねば始まらない。
「昨日から具合悪そうにしていていたんだが、昼飯前にリディから落ちたんだ」
カミーグを見るとうっすらと目をひらき、身体を起こそうとしているが、明らかに辛そうだ。
「すみません、もうだいじょうぶです。出発しましょう……荷物ののうき……間にあわないですよね……」
「まだ出発しないから大人しくしてろ。で、余裕は?」
「明日の朝出発すれば何とか」
俺の方の納期はあってないようなものだ。我ながらお人よしである。
じゅうたんの収納魔法陣に手を突っ込み、次々と荷物を引っ張り出す。
まずはコップを三つ並べると、今朝作ったばかりの水を注いでいく。
「まずは水分補給だ。今朝作ったばかりだから、まだ不味くなってないはずだ」
「おぉ、なんか味が違う気がする」
「なんかおいしいかも」
俺もぐいっと飲み干す。
「で、自覚症状はどんな感じだ?」
「じかくしょうじょう?」
医者ではないから専門的なことは出来ないが、常備薬くらいはあるので聞き出していく。
まず落ちた時に顔から砂に倒れたため、頬に軽いやけどをして赤くなっている……
木桶に水を入れ、水操作で温度を下げていく。手拭いを浸し固く絞ると手渡してやる。
「え!?冷たい!」驚くカミーグ。
「俺のちょっとした特技だ。いいからやけどしたとこを冷やせ。遅いかもしれないがやらないよりましだ……と、その前に熱あるか見るぞ」
熱を測ろうと手を額にかざしたら、ビクッと反応してくる。反応もそれだけだったので構わず測る……微熱があるかな?ふいと目が合う
と逸らされてしまった、なんだろう?手拭いをあてていない反対側の頬が赤い気がする。構わず体内の水の温度を調べていくと……
「体表と体内の温度に差がある……?体温調整がうまくいっていないのか?身体がだるくて、腹が痛いんだっけ?」
「そうです。あと腹というか下っ腹が、ちょっと痛いです」
何となく原因の予想がついてきた。
もう一個桶を引っ張り出すと、今度は水を人肌にまで温める。
「身体起こせるか?今、身体というか皮膚を温めてやるからな。両手をこう水平にあげてくれ」両手を上げるとカミーグも同様に手を上げる。
「こうですか?」
木桶に手をかざし、お湯をすいーっと引っ張り出すとまずは玉にする。目を丸く見開く二人。
「え、え?なんですかそれ?」
「カミーグの反応は分かるとして、エルネストさんまでその反応は傷つくなぁ」
「あ、あぁ。水使いってそんな芸当もできるのか」
「それなりに訓練してますから。じゃ、手からあっためるぞ」
お湯を紐状にして手に巻き付けるようにする。さながらお湯の蛇だ。服には浸みず、肌には浸みるってのは俺の操作技術の賜物である。
だぼっとした袖口から入れ、背中を経由して反対側から出す。汚れたお湯は遠くへ投げ捨てる。
「感想は?」ニッと笑ってみる。
「なんかさっぱりして気持ちいいです」掴みはいいかんじだ。
「じゃ、あご上げてー」今度は首元からだ。
あごの下からうなじの辺りを回していき、背中全体を流していく。数回お湯を替えながら、みぞおち・お腹・下腹部を温めていき、あえて胸・股間やお尻は避ける。
「あぁーいいかんじですー」どうやらリラックスしてきたようなので次に進んでみよう。
「よし、さっぱりついでに頭とか髪とかも洗ってあげよう」
「ふわぁぁ、ほんとですか、ありがとうございm……」
す……っと、頭からかぶっている日除けの布を取り除いた瞬間、我に返るカミーグ。
「や!だめっ、です!」
布は既に外されて、緩んでいた髪留めが暴れた拍子に外れて飛んで行った。
濃い栗色の髪が流れていき、長い髪があらわになる。
エルネストさんは口をあんぐりと開け、俺はあたりまえの様に話しかける。
「カミーグじゃなくてカミーユかな?さ、頭も洗ってさっぱりしよう。女の子なんだから髪の手入れもしなくちゃな」
彼女は涙目になって、されるがままに洗われていった。
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