エルフ、砂に生きる

ウィニィ

本編

第1話 砂の海を征く

ふと目がさめる。

包まっていた毛布をかき寄せるが、諦めて起きる。

見渡す限りの砂の海。背後には砂丘がある。

東の空は明るいが、まだ太陽は昇っていない。耳につけているイヤリングも太陽に反応しておらず、効力を発動していない。


砂漠の旅のいつもの日課を始めるとするか。

空になっている水用の革袋を左手に持ち、飲み口のところに漏斗を差し込む。


"水よ"


意思と魔力によって、漏斗の上に添えた右手から水が注がれていく。

砂漠でも朝だと結構大気中に水分はある。魔力のある俺ならば、昼間でも水の補給は可能なのだが、朝のこのタイミングでやってしまえば時間も手間もかからずにすむのだ。

三つの革袋を水で満たした俺は、朝の涼しいうちに目的地への距離を稼ぐ。


鞄から地図を取り出し、上り始めた朝日のまぶしさに目をしかめつつ地図の向きを修正する。


"パンッ"


両手を打ち鳴らしつつ方向を確認すべく魔力を注ぎ、すぐさま両手を広げぐるっと一回転する。

いつものように反応が三箇所。

後方に出発した町、左手にオアシス、前方…ちょちょい右手に目的地の町のマーカーを確認。


町やオアシスの辺りならば、植物や建物があって目印になるのだが、ここは砂の海。

熟練の案内人や探索スキルを持っていないものだと自殺行為である。


就寝時の敷き物にしていたじゅうたんに魔力を注ぐと、魔法陣が展開される。

毛布と出していた荷物諸々を、収納魔法陣の上にぽいぽい乗せていくと、すいすいーっと荷物が消えていく。

仕舞い忘れは…


「ないな」


と、独り言ちると更にじゅうたんへ魔力を注ぐ。

当たり前の様に使っているが、エルフの魔法じゅうたんの性能はすばらしい。

滑る様に進んでくれる。

暑くなる前に距離を稼がねば…暑くも寒くも砂漠は朝晩気温が変わるので難儀な場所である。






……難儀な場所の、くそ暑い時間に……

いき倒れを発見した。彼方にはいき倒れの所有していたっぽいリディがいる。

リディってのは砂漠で荷運びに使う家畜である。

進んでくれない飼い主を心配しているようで、周囲をうろついている。


砂漠で暮らすものとして、この手の類いは見捨てられない。

じゅうたんの収納魔法陣から、天幕を引っ張り出して設置。

熱中症になっているぽいので天幕内を涼しくせねば…

水を口元に持っていくとすいすいと呑みやがる…いや飲みやがる。

ちくしょぅ…


天幕中央に水の入った革袋を置き、

両手を打ち鳴らし、即座に両手を広げ回転。

すると革袋から霧が立ち上り、天幕内の温度を下げていく。


こいつのリディが戻ってきて天幕に入ってきた。背中にはこいつの積荷。疲れるだろうから荷物を降ろしてやり、水も与える。

眠っているこやつに一発でも食らわせてやりたいのを我慢しつつ、面倒を見ていた翌朝。


「ぬ゛お゛ぉぉぉぉ、配達時間んんんん!」


水の採取の時間前に絶叫しやがる行き倒れ。

日の出前からうるさい奴だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る