11.新たなる訪問者

結論から言おう。

俺は生きたまま、味方の女の子がいるであろう場所に到着することができた。

はっきり言って奇跡だ。だが――。


「こっち来んじゃねええええええ!!!」


まだ、戦闘は続いていた。

HPゲージは赤く染まり、本当にギリギリの状態で生きている。


手近にあった大きな鉄製の柱の陰に身を隠した俺は、熱で壊れそうなAK-47をぶんぶん振り回していた。敵がうじゃうじゃやって来るのだ。まるでゴキブリのように。


先ほど最後の生還者の女の子が送ってくれた座標によると、多分ここら辺にいるだろう。

俺は銃を乱射しながら大声で叫ぶ。


「助けに来たぞォォォォォォ! どこにいるんだァァァァ!?」

「――せ、戦車の中です……」


耳を澄ましていなければ聞こえなかったであろうか細い声。


戦車……?

銃を構えた手は休めず、ぐるりと辺りを見渡した。


――あぁ、あった。思いっきりひっくり返っちまってる戦車が。


「もしかして、一人じゃ出られねえのかァァァァ!?」


銃声にかき消されないように、再度大声を発する。


「は、はい……」


ふっざけんなよぉぉぉ!


こんな状況で戦車に向かってのこのこ歩いて行けば、それこそ良い的だ。

何か策はないか……。――そうだ、リタだ。あいつはまだなのか!?


「リタ様、降臨こーりんっ!」


と、まるで見計らったかのようなタイミングで飛びんできた幼女。

その手に握られていたのは――〝RPG〟?


「いくら殺しても尽きない、気色の悪い集団ねっ!」


綺麗なソプラノボイスが吠えると、RPGの銃口から真っ赤な炎の塊が飛び出してくる。


――バゥゥン


空気は強く揺れ、心なしか周囲の温度も上がった気がする。

その炎はそのまま敵の中心部へ落ちると、数十人を一気に吹き飛ばした。


「次弾装填っ! ……って、アンタ、ボケっとしてんじゃないわよ! ここはあたしに任せて、女の子を助けてあげて!」


お前はチーターか――という言葉をなんとか飲み込み、小さく頷く。今はそんなくだらない漫才やってる時間はない。

それと『ここは俺に任せて先に行けッ!』っていう、俺のを取らないでもらえますか?


「今助けるからなァァァァ!!」


戦車に向かって走り出した。

その助走を活かして、そのまま車体に思いっきり体当たりを食らわせる。


「キャッ!」


戦車の中から聞こえてくる小さな悲鳴。

ぐらっと揺れた車体へ更にアタックをかける。


このゲームの戦闘車両系は意外と軽いのだ。


「オラァッ!」


すると、どうでしょう。戦車が元の位置に戻ったではありませんか。


「ひぃ!」


戦車の中からゴツンと大きな音が聞こえた。


「いっつつつつ〜〜〜っ」

「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫です、ありがとうございました! 是非戦車に乗ってください。とにかくここから脱出しましょう!」


戦車に乗り込むってのは名案だな。


「おう!」


大声で返すと、リタの方をちらりと見る。

サブマシンガンの『MP5』に持ち替えて、必死に攻防を続けていた。


「リタぁ! 戦車に乗るぞ!」

「あいあいさー!」


銃を発射しながらも、じりじりと後ろの方へ下がってくるリタを尻目に、俺は戦車へ飛び乗った。


定員は4.5人が良いところだろう。

暗い密室の操縦席に、最後の生き残りのは座っていた。

そのはこちらをふっと振り向くと、ニコッと笑いながら話しかけてきた。


「来てくれるって信じてました」


あ、可愛い。

なんか黒髪ストレートだし、顔立ち整ってるし、美人だわ。


「この戦いが終わったら、結婚しよう」


――俺ちょっと疲れてるわ。

多分ゲームのやり過ぎだと思う。ママもゲームは1日1時間までって言ってたしな。

だからこの発言も――。


「良いですよ? ふふふっ」


黒髪の美女は口の前に手を当てると、上品に笑った。


――ん? 今なんて言った?


「え゛? マジ?」


返ってくると思ってもなかった言葉。予期せぬ結末。

俺の脳みそは高速回転を始めた。


え、どうしよう。

コンドームとか買ってきた方がいいかな? いや、でもそういうのは段階を踏んでからやるっていうのに意味があってだな……。


頭がお花畑になり始めた瞬間、リタの声が頭上から降ってきた。


「どいてどいてどいてーーーーーー!」


反応が遅れた。

俺と同様、リタも戦車に飛び乗ってくるのだ。

そして俺はその場所を空けていない。

結果は必然。


「あ、いや、やめ――」


その声も虚しく、俺の体はリタのお尻に押しつぶされる。

oh、ナイス手触り。モミモミ。


っっっっって、違う!


ハッと我に返った俺は、無意識のうちに行っていた一連の動作を思い起こす。

そう。リタが降ってきて、俺の体を押し潰して、そのリタのお尻を――俺は――。


「があああああああ、すまん! 悪意はこれっぽちもないんだ!」


リタから素早く離れて、土下座を始める。


「その、たまたま手に当たっちゃったからで、別に本気で揉もうとは――」

「い、いいよ別に。わざとじゃないんだから」


返ってきた予想外の言葉に驚き、顔をあげてリタの方を見やる。

そこには至って普通の顔をしたリタがいた。


――え?


「許してくれるの?」

「どうして? 別に悪気がないならいいわよ」

「……」


なんかアレだな。

逆にここまでくると男として認められてない感じだよね。すごくショックだよね。


「もしかして――リタ?」


俺たちの間に割り込んできた言葉。黒髪美少女の声だ。そしてその声には憂いが込められていた。


「「……」」


そして訪れる沈黙。


が、最初に口火を切ったのはリタの方だった。


「アンタ……かなで……?」

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