8.In The War!
――ヒュン
それはとある一つの民家の角を曲がった時のことだった。
ようやく広い道に出られた、と思った瞬間、俺の前を一つの銃弾が通り過ぎていく。
「スナイパーよ! 物陰に隠れて!」
そう叫ぶと、リタは道を素早く
俺も半歩下がって民家の陰に隠れた。
どうやらこの道をまっすぐ行ったところにSRが隠れているらしい。
「あたしはSRを始末するから、アンタは援護をお願い!」
俺は汗ばむ手でAK-47を握りしめた。
「うーん。SRが3人隠れてるわ。この分だとライフル持ちも出てくるわよ」
まばらな足音が聞こえてくる。
どうやらリタの予想は的中してしまったらしい。
>リタ が NPC:John Williams を射殺
視界の端に流れるログを確認すると、俺は遮蔽物から身を乗り出して銃を構えた。
目視できた敵は5人。
まずは建物から建物に向かって移動中だった敵に狙いを定めて、弾丸を打ち込む。
>ギンガ が NPC:James Brown を射殺
残り弾数20発。
続けて
>ギンガ が NPC:Henry Miller を射殺
>リタ が NPC:Carter Wilson を射殺
ようやく戦闘モードに入ったらしい残りの3人がライフルの弾を乱射し始めた。
残り弾数は14発。
素早く身を引いてリロード。
鳴り止まぬ銃撃がピシッ、ピシッと民家の壁を
リロードが終わったAK-47を
「フラッシュ!」
そう叫びながらピンを抜くと、
同時にリタはすぐに身を隠して、目を閉じる。ナイス連携。
――キィィィィン
強い閃光が辺りを支配し、かん高い金属音が耳をつんざいた。
俺たちは間を置かず、遮蔽物から飛び出すと、発砲を開始する。
フラッシュグレネードの効果範囲は8m《メートル》。十分な範囲だ。
目が見えずにおろおろしている敵に向かって、AK-47のスコープを覗きながら、慎重にヘッドショットを決めていく。
1キル、2キル……
が、そう簡単にはいかない。
遠くから何かキラリと光るものが視界に入った瞬間、足に重たい衝撃を受け、HPバーが真っ赤になった。
まずい……。
結局敵を殺しきれず、俺は一度撤退を図る。
はぁはぁ……危なかった……。
民家の陰に転がり込んだ俺は急いでバックから救急パックを取り出し、緑色の液体を腕に注射する。
急激に回復していくHPバーを目で追いながら、ほっと胸を撫で下ろした。
「ボケっとしてる間じゃないわ!」
まだ交戦中のリタの悲痛が、俺が戦場にいるという事実を呼び起こす。
急いでAK-47を手に取り、戦闘態勢をとった。
敵がもう3人も増えてやがる……。
リロード途中だった敵の一人のボディーに、足に、腕に、ありったけの銃弾を撃ち込んだ。
>ギンガ が NPC:Ryan Anderson を射殺
>リタ が NPC:Isaac Taylor を射殺
残り弾数15。まだ大丈夫だ。
俺は無駄撃ちが多いことが気になりつつも、レクティルを次の敵に合わせる。
全身に受ける軽い衝撃。
3人から放たれる鉄の雨は俺のHPバーをザクザク削っていく。
「クソッ……」
小さく
>ギンガ が NPC:David Thomas を射殺
>ギンガ が NPC:Dylan Hernandez を射殺
>リタ が NPC:Samuel Jackson を射殺
遠くに潜んでいたスナイパーを全滅させたリタが俺の援護に回ったらしい。
道に横たわる
「や……やったぞ!」
「うん、そうね!」
嬉しそうな表情を浮かべながら、次の戦闘に向けてリロードするリタ。
「それにしても、アンタやるじゃん! あたしアンタがこんなに頼りになるって思わなかったわ」
「あぁ! 俺もこんなにキルできるとは思わなかったぜ! サンキューな!」
こんなに戦闘らしい戦闘をしたのは初めてかもしれない。
いつもスナイパーを持って味方の拠点に
「でも、さっきの狙撃が防げなかったのはあたしのせい。ごめんなさい!」
リタはギュッと目を
「いいよ、別に。一瞬で何人もスナイパーで倒すのは難しいって分かってるから」
スナイパーの難しさはこれまで沢山味わってきたつもりだ。
リタは良くやってくれたと思う。
「あ、ありがと……。て、てか、フラッシュグレネード入れるなら事前にちゃんと言ってよね!」
「あぁ、すまん。これから気をつけるよ」
「じゃあ行こうか……」
リタが先陣切って、敵の拠点があるだろう場所に歩を進め出した――。
* * *
「な、なんなのこれ!」
敵の拠点までたどり着いた俺たちは、目の前に広がる光景を目にして絶句を漏らさずにはいられなかった。
――何もないのだ。
「ど……どういうことだ?」
あるべきはずのNPC。あるべきはずの戦闘車両。あるべきはずの……。
もぬけの殻だった。
「わ、分からないわ! こんなこと初めて……」
「バグか!? でもさっき兵士はいたぞ……?」
「…………もしかして、もう味方の拠点に攻めこんじゃったのかも」
「ちょっとボイチャ繋げてみるよ」
分隊長がうるさいので受信を拒否してしまっていたボイスチャットをオンにする。
『――敵兵士の大部分が進攻中です』
『部隊の生き残りが自分だけになってしまいました! 分隊長、自分はどうすれ――ガハッァ!』
『各自、適切な行動を――』
『無理だァ! こっちはもう手一杯! 支援を回してくれェ!』
ごくりと生唾を飲み込みながらリタに尋ねる。
「こ、これって……」
「ええそうね。完全に入れ違いだったわ……」
「今から急いでも10分はかかるぞ?」
「とにかく走るしかないわ!」
その言葉を歯切りに、俺たちは駆け出した。
「おかしいと思ったのよ、全然敵に遭遇しないし……」
「それならそうと先に言ってくれよな!」
「う……悪かったわね」
脚をできる限り速く動かす。
「ま、待ちなさいよ!」
「リタは遅いなぁ……。あ、幼女だから仕方ないか」
ははっと笑う。
「アンタ、許さないわ」
目の色を変えたリタが死に物狂いで走ってきた。
しめた、引っかかったな。
「よ、よ、よーじょ、よーじょは10年たってもロリババア! よ、よ、よーじょ、よーじょは――」
「ぜっっっったいに許さない!」
俺たちのスピードは確実に上がっていった――。
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