6.決断。

「ギンガ、お前にはライフルが合うと思う。俺の直感がそう言ってるんだから間違いないぜ」


 白い歯をキラリと光らせて、ハマーがそう断言するように言った。


「あ、あたしもそう思ったわ!」


 横から「はいはーい」と手をあげて割り込むリタ。


 経験者がこういうんだから間違いないか……。


「分かりました……」


 こくりとうなずく。

 いや、おかしいな。

 俺もかなりの時間を費やしてるんだが、この差はどこでついた?


 ハマーがカウンターの中で何かゴソゴソと探し始める。


「ちょっと待ってろー。確かここら辺に品書きが……。お、あったあった」


「よっこらしょ」と立ち上がると、ハマーは空中でメニュー画面を操作し始めた。


 何をしてるんだ……? と訝しげに見つめていると、俺の視界でメッセージ受信の通知が表示される。



 >ハマー さんからメッセージを受け取りました。



「それ、開いてくれ」

「あ、はい」


 言われた通りにメールを開く。



 ……………………………………………………


 [フルオートライフル]


 ・AK-47

 ・M4A1カービン

 ・FA-MAS《ファマス》

 ・IMI ガリル (Galil)

 ・FN SCAR



 武器なら『KILLER』にお任せ!


 ……………………………………………………



「少ねえええええ!」


 思わず突っ込んでしまった。


「いや……予算が2万円以下だとそれぐらいしかねえんだよ。どうせ防具なんかも欲しいんだろ? それもつけてやるからこっから選ぶんだな」


 ハマーが仕方ないといった風に言う。

 おいおい、本当にこの店で大丈夫なのか? 心配になってきたぞ。


「ハマー、あたしにも送ってもらえる?」

「おうよっ」


 空中を見つめてしかめ面をするリタ。


「確かに少ないわね……。けど、アンタにはこれで十分よ」

「そうなのか……」


 なんとも言えず、黙り込んでしまう。


 ハマーがとりなすように口を開いた。


「あ、あまりライフルに使い慣れてないなら、M4かFN SCAR辺りがオススメだ。反動が軽いのがでかい特徴なんだ」


 なるほど。


「アンタ、反動が強いのは苦手?」

「強さにもよるかなぁ」

「物は試し、ね。ちょっとM4とSCARとAK-47を借りていくわ」



 * * *



 ――街エリア【武器屋/射撃場】


 ハマーから借りた3つの武器を持って、俺たち2人は射撃場へと来ていた。


 どの武器屋にも射撃場は必ず併設されていて、その射撃場エリアでのみ発砲が許されている。街での発砲は制限がかかっていてできないのだ。


「まずM4A1から撃ってみて」

「ういっす」


 ほい、と手渡されるM4A1を片手で受け取った。


 グリップを握る右手は脇をしめ、ストックに右頬を当てて安定度を保つ。

 ハンドガードを左手で支え、サイトを覗き込んだ。


 これで構えは完璧だ。

 リタに声をかける。


「よし、いいぞ」

「ハマー、お願い!」


 リタが店の方に向かって声をかけると、「了解!」というハマーの野太い声が聞こえる。


 ガチャリ、という金属音が鳴ると共に、無機質な女性の声が室内に響き渡る。



『これより、ユーザー認証を行います』



 その瞬間、俺の視界の右下に弾数・HPゲージ・装備武器のシルエットが、左上には周囲のマップが浮かび上がってきた。



 ユーザー認証とは『発砲不可』という制限を一時的に外す仕組み。

 戦場ではこの認証を自動で実行している。



『それではこれより射撃演習を行います。人の上半身をかたどった板が次々に出現しますので、一つ一つ的確に撃ち落としてください』


 大きく深呼吸をする。

 リラックスリラックス。


『開始します。3、2、1――』


 カウントダウンが終わるや否や、宙ぶらりんになった的が右から飛び出してくる。



 ――狙いを定めて撃つ方法は簡単だ。


 スコープを使う方法とレクティルを使う方法の2通りがある。


 スコープを使う方法は従来までのFPSと特に変わらない。

 しかし、レクティル――つまり、照準を使う方法は少しだけ特殊だ。


 銃を構えていてスコープを覗いていない場合、視界にレクティルが表示される。

 そのレクティルを目標に合わせることで、正確な射撃をすることができるのである。



 落ち着いてレクティルを合わせてトリガーを引いた。



 ――ババババン



 軽い銃声音が射撃場にこだまする。


 思ったより反動が軽くて拍子抜けした。しかも発射レート (1秒間に発射される弾数)も高い。

 序盤じょばんから好印象だ。


 残り弾数26。

 俺はマガジンを取り出してリロードする。


「まだ早いわ」

「えっ?」


 後ろで見ていたリタが口を挟んできた。


「リロードするのが早すぎ。ライフルは10発切ったらリロードした方がいいわ」

「お、おう……」

「ま、今回は練習だからいいけど、戦場だとその一秒一秒が命取りになるのよ」


 なるほどな。

 また一つタメになった。


 俺は的に向き直ると、再度M4を握りしめる。

 まだ終わっちゃいない。


 バカッという天井が開く音に合わせて、上から2つの的が降りてくる。

 俺はスコープをのぞいて勢いよく鉄のかたまりを打ち出した――。



 * * *



「ふぅ……終わった……」


 額にじわりと浮き出た汗を拭いながらため息をく。

 一応全部の試射が終わったのだ。


「お疲れ様っ」


 リタが金色の髪の毛をたなびかせながら駆け寄ってきた。


「どうだった? どの武器が良いと思った?」

「M4A1だね!」


 もちろん即答だ。


「そう……」


 心なしか微妙な表情を浮かべるリタ。


「あまり……良くないのか?」

「いや、そんなことはないんだけど、M4A1って操作感が良いばっかりであまり攻撃力が高くないのよね……」


「マジか。逆にリタのオススメはなんなんだ?」

「あたしはAK-47かなぁ」


 えー、そりゃないわ――という言葉をどうにか飲み込んで、口を開く。


「反動大きいじゃんアレ」

「諸刃の剣よ。反動が大きい代わりに攻撃力はかなり高いわ」


「そうなのか……」

「M4A1とAK-47でタイマン張ったときに、どっちが勝つかって言われたら多分AK-47だわ」


「リタはそっちの方がオススメってことか?」

「まぁそういうことね」


「別にどっちでもいいけど」と付け加えていうリタ。


 ……経験者のいうことに間違いはない、はずだ。


「分かった。そうするよ」


 渋々しぶしぶ答えると、リタがハッとした顔で口を開く。


「べ、別に強制ってわけじゃないのよ!?」

「いや、リタを信じてみるよ」

「そ、そう……」


 互いの間に気まずい空気が流れるが、俺は気にせずカウンターに足を向けた。


「ハマー、AK-47頂戴!」

「毎度ォ!」


 ハマーは空中をスライドさせて、メニューを操作し始める。多分アイテムを転送するのだろう。


「あとさ、会計終わったら射撃場貸してもらってもいい? ちょっと腕慣らしたいからさ」

「あぁ、全然問題ないぜ!」


 その後、俺の射撃演習が1時間ほど続いたことは言うまでもない――。

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