自分が転生者だと気付いた……否、正確には前世の記憶を思い出したのは十歳くらいの頃だ。
平民ではあったが異世界ならではのしんどい環境などではなく、比較的穏やかにすくすくと成長してきた。
『……はっ!? 頭が……ぐああああああああっ!?』
なんて、お約束的な言動と共に頭を抑えて蹲って……そこで俺は現世の記憶を思い出したわけだ。
現代日本から異世界への転生……それは一時期憧れの類でもあった。
そうして記憶を取り戻したのがきっかけだったのか、俺の中に眠っていた剣と魔法の才能が一気に開花し、それこそ前世で読み耽っていた転生チートオリ主のような活躍を可能にしてくれた。
『アキト様! よくぞいらした!』
『これで勝てる! 勝てるんだ俺たちは!』
『皆の者! アキト様に続くのだ!』
『この戦い、アキト様を要する我らの勝ちだ!』
別に実力をひけらかしたり、調子に乗ったりすることもなかった。
だが王国の冒険者として活動する内に名が売れていき、それが王族方の目に留まり……そこから王家から直接依頼を受けることも増え、黒い髪と目を持っているからか漆黒のアキトと呼ばれるようになった。
『アキト様、素晴らしいご活躍ですわ』
『いや、大したことはしてないですよ。やりたいことをやってきただけですから』
『……本当にあなたはいつも謙遜なさいますね。ですがその優しさと献身に、わたくしたちは助けられておりますわ』
現在十九歳の俺と同い年の王女様に大層気に入られたのもあって、俺は王国を守護する将軍たちと同じ地位をもらったのだが……まあこれが色々とやっかみを受けたものの今ではしっかり受け入れられ、王国にとって必要な一員として接してもらえている。
故に、ある程度のことなら俺がやることに異は唱えられるものの、基本的にはオーケーをもらえる立場ということだ。
「……ふぅ、何とかなったか」
星空を見上げ、俺は軽く息を吐いた。
ついさっきまでサキュバスたちと話し合いの末に、彼女たちはみんな俺が保護する形で娼館の所属となることが決まった。
俺が危険な存在ではないと分かって緊張の糸が切れたのか、はたまた久しぶりに精気を体に入れてお腹が膨れたのかは分からないが、そのまま洞窟の中で身を寄せ合い眠ってしまった。
「アキト」
「? あぁリリムか……寝たと思ったんだが」
まあ近付いてくる気配はずっと気付いていたがな。
振り向いた先に居たのはサキュバスのリーダー格であるリリム……他のみんなとも軽く自己紹介は済ませたが、その時にこのリリムがみんなの纏め役であることも教えられた。
「うふふっ♪ あなたの傍に居たいと思ってね」
「……なんか、随分と気に入られちまったみたいだな?」
他のサキュバスたちもそうだが、どうやら今回の一件でリリムから大層気に入られたようだ……まるで王女様と同じ空気を感じるものの、やはり美人に気に入られるというのは嫌ではない。
サキュバス特有の露出の多い恰好故に、少し歩くだけで推定三桁は越えていそうな乳房がたゆんたゆんと揺れる……てか真っ赤な髪の毛や意志の強さを思わせる瞳も相まって、クールな印象も感じさせる顔立ちだ。
「気に入らないわけがないでしょう? ただでさえ私たちはみんな極限状態だった……そんな私たちにあんな美味しいモノを提供してくれただけでなく、これからのことを約束してくれた……それに知ってる?」
「何が?」
「私たちサキュバスは確かに弱い……でもだからこそ、世渡りを極めた一環として他者を見る目はある方なのよ。だからあなたが嘘を吐いて私たちを貶めるような人ではなく、本心で私たちを救おうとしてくれていることが分かったのも大きいわ」
「へぇ……それはいい能力だな。娼館にやってきた客が良いか悪いかをすぐ見抜けるじゃん」
「えぇ、任せてちょうだい」
クスクスと笑いながらリリムは隣に腰を下ろした。
……サキュバスは警戒心もかなり強いと聞くし、ついさっきまでリリムは率先して俺を警戒していたはずなんだが、まあここまで警戒を解かれたことは素直に喜ぼう。
「とはいえ……まだどうなるかは分からない。けど安心してくれ――俺は王国でも割と良い立場だからな……何とか丸め込んでみせるさ」
「……アキトは本当に魔族相手でも態度を変えないのね?」
「見た目はそう変わらないし、こうやって会話も出来るからなぁ。それに人との違いなんて角や翼、尻尾があるか程度の違いだ」
「それが大きい違いのはずなのだけど……」
「じゃあこうも言うか――美人を殺すのは世界の損失だぜ?」
「っ……ふふ、不思議な人」
いやマジで、美人を殺すのは本当に世界の損失だと思う。
けど人間と魔族の間で埋めようのない溝が出来上がってしまっている以上は、俺がやろうとしていることにもある程度のツッコミは入るだろう。
だがまあ、助けるといった以上は必ず実現してみせる……そして保護すると決めた以上、絶対に彼女たちを蔑ろにせず守っていくつもりだ。
「ちなみになんだが」
「どうしたの?」
「サキュバスの現状は把握したが……やっぱ他に苦しみながらもひっそりと暮らす魔族は多いのか?」
「そうね……逃げてばかりだったからあまり把握してないけど、力のない魔族はサキュバスだけではないし……かといって力はあるけど戦いを好まない種族も居るし……きっと沢山居るでしょうね」
「そうか……」
この世界……やっぱ色々過酷だわ。
王国の将軍たちの中には何が何でも魔族は滅ぼすべしなんて派閥もあるしで、王国に戻ってからは胃痛との戦いに悩まされそうだ。
「アキト様」
「お、おう……」
「寒いわ……身を寄せてもいいかしら?」
「……お手柔らかに」
「うふふっ♪ 女性の体に慣れてないのが本当に可愛いわね♪」
うるせえ……どうせ俺は童貞だよこんちくしょー!
流石サキュバス……ほんの少し動揺しただけで女性に慣れてないかどうかが手に取るように分かるらしい。
「……いや、やっぱこれでいいんだよな」
「アキト様?」
「サキュバスってのはさぁ、やっぱこう怯えて隠れるようなんじゃねえんだよな……男を手玉に取るっていうか、ちゃんとサキュバス主体で相手に夢見させるのが本来の姿だと思うわけだよ俺は」
「……時々、妙に饒舌になるわよね」
いや……こうやって気分を乗せておかないと明日大変そうだし。
それからしばらくリリムと会話を楽しんだ後、彼女たちと一緒に睡眠を摂るのだった……周りにサキュバスが居る中、安心して眠りに就けるのもおかしな話ではあったが……敢えて言うならすんごい良い香りだった。
▼▽
翌日、俺はリリムたちを連れて最速で王都に戻ってきた。
二十人という大所帯ではあったものの、王女様から与えられた俺の屋敷はかなり大きく、二十人ほど人が増えたとしてもまだまだ部屋に空きがあるくらいだ。
「アキト様、どうぞお進みください」
「あぁ」
兵士にそう言われ、俺は玉座に通じる扉を開いた。
中にはそれなりの人数が総出であり、わざわざ俺の帰還を待ってくれていたらしい……まあこうしてわざわざ集まらせたのは、王女様の気遣いだろうけど。
「おかえりなさい! アキト様!」
「は、はい……ただいま戻りました――アリア様」
バルンバルンとデカい乳を揺らしながら一人の女性が駆け寄った。
眩い黄金の髪と空に溶けるような青い瞳、純白のドレスを身に纏うこの女性こそが、このアドメイア王国の至宝――王女であらせられるアリア・アドメイア様だ。
……てかいつ見ても思うけど本当に十九歳かよ、なんてスタイルしてんだこの人は。
「任務、ご苦労だった。確かサキュバスの殲滅であったか」
次にそう言ったのはこの国の王であり、アリア様の父親であるドラグノフ様だ。
いかつい……めっちゃ厳つい顔をしてるが、これで子煩悩な所がギャップらしくそこが民にかなり人気らしい。
「依頼の内容はお伝えしていなかったですが、伝わってるんですね」
「まあな。お主のことだから心配はしておらんが、それでも何かあってからでは遅いのでな……お主の損失は国の損失。それほどに漆黒のアキトという存在はこの国にとって重要なのだ」
「……過分なお言葉、恐れ入ります」
いや……転生チート能力のおかげとはいえ、本当に重要な立場になってしまったものだ。
ちなみに今のやり取りに舌打ちも軽く聞こえたが、将軍たちの中に俺を気に入らない連中が居るというのはこれだな……ただ、すぐにアリア様に睨まれて黙ってしまったが。
「アキト様、報告はこれくらいにして……これからお茶でも……?」
上目遣いに訊いてくるアリア様……クソ可愛い。
「すみませんアリア様、実はまだドラグノフ様にお話があるので……」
「父など放っておいて良いではありませんか」
「あの……アリア? 最近私の扱いがぞんざいではないかい?」
おい、一国の王が泣きそうになるんじゃないよ。
冷たい娘の対応に涙目だったドラグノフ様だが、すぐさま表情を切り替えた。
「それで、私に話というのは?」
「はい――実は今回の依頼に関して、サキュバスは殲滅せずに保護して帰ってきました」
「……は?」
「……え?」
ドラグノフ様、アリア様がポカンとした表情になった……いや、他の将軍たちと一様に似たような表情だ。
俺は畳みかけるように言葉を続けた。
「なので彼女たちの仕事先と言いますか、特性を発揮出来るかつ合法的に生きるための精気を摂取出来る場として娼館を運営しようと思います」
「あ、あぁ……え?」
「ほら、何か褒美は要らないかとずっと言われてたじゃないですか。なのでちょっと会社経営的なこともしたいと思ったので、サキュバスたちを俺の娼館で働かさせてくださいよろしくお願いします」
そうして深く頭を下げた。