• ラブコメ
  • 異世界ファンタジー

埋蔵金のように奥底に眠っていた奴1

「……なんで……あの時、愛してるって……」
「はあ? んなもん出まかせに決まってんじゃん。てかお前は遊び相手でそれ以上でもそれ以下でもねえからな。分かったらとっとと消えろ。もう会うことはねえから」

 俺の言葉を聞いて目の前に立つ少女、三枝《さえぐさ》志穂《しほ》は絶望したような顔になり、その顔を見て俺は……あれ、何をやってんだ俺は。
 まるで、今までの自分の生き方に疑問を突然だが俺は持った。いや、本当に自分でも良く分かっていないんだ。人が変わったような、自分で何を言ってんだって話だけど本当にそんな感じだ。

 今目の前に居る彼女、志穂との出会いはつい最近のことだ。
 街中で見て綺麗な子だなと思い声を掛けた。亜麻色の長い髪に肉付きの良い体、幼さは残るが大人へと成長しようとしている顔、大よそ誰が見ても美少女と呼べる子だった。

 言ってしまえばナンパだった。志穂は最初俺を警戒していたが、自己紹介をしてからは驚くほどに警戒心を解いた。チョロイ女だと思いつつ、色々と話を聞いていくと志穂には彼氏が居るらしい。キスもしたことなく、手を繋ぐので精一杯……それを志穂は悩んでいたのだ。俺としては、こんな極上の女を前に手を出さないなんて考えられず浮かぶ限りの言葉で志穂を誘った。

 その言葉に彼女は乗り、俺はほくそ笑みながら彼女を抱くに至った。初めてのことに戸惑いながらも俺が言うことに従う彼女は本当に従順だった。何か意図があるかとも思ったが、志穂の様子からはそんなものを感じることはなく、本当にただチョロイだけの女という認識しかなかった。

『……あの、また会えますか?』

 いや、誘ったのは俺なんだが……本当にこの子はもう少し人を疑った方がいいとさえ思った。頷けば彼女は嬉しそうに笑い、次の約束をして去って行く。それがしばらく続き……俺と志穂がラブホから出てくる瞬間をどうやら友人に見られたらしく、そこから彼氏にバレたのだそうだ。

 ただ異性と一緒に歩いていたとかなら、難しいかもしれないが弁解は出来るだろう。だがラブホともなれば話は違ってくる。何故なら決定的な浮気の証拠となるからだ。たとえ肉体的関係を万が一持ってなかったとしても、自分の彼女がラブホから知らない男と出てきて信じられる奴はまずいない。

『……私、居場所が無くて……あなたの……涼太君の傍しかないの』

 そして今日、学校で浮気を糾弾された志穂は居場所を失い、俺の元に逃げて来たというわけだ。以前から聞く機会があったけど、志穂の彼氏は大層モテるらしく周りは常に女の子が居たらしい。生徒会長の義姉、再婚して知り合った義妹、ナンパから助けた同級生、そして志穂の妹も彼氏君に淡い想いを向けていたのだそうだ。

 そんな風に多くの女から想われながらも、彼氏君は志穂だけを想っていたらしく高校生になってから付き合い始めたとのことだ。
 ……まあ何だろうな、当時はそんなにモテる男が居たもんだなとそれだけだったが、今思うとなんだそのよくあるネット小説の主人公みたいな設定はと突っ込みたくなる。交友関係もそれだが極めつけは家族関係についても同様で、お互いに婿になってほしいだとか嫁になってほしいとかそういうことを話すほど仲が良かったらしい。故に、浮気をした志穂は彼氏を好く女たちから、そして家族からも絶縁同然の扱いを受けたのだそうだ。

 ここまで説明すれば分かるだろう。つまり、志穂はもう俺しか頼れなくなってしまった。ただ性欲を発散するように甘言で惑わせ、嘘しかない愛を囁いた俺に縋るように。

 ったく、さっきまでの俺はこんなことを全く気にもしなかった。なのに、どうして今になって俺はこんなにも自分がやったことを後悔しているのだろうか。まるで……まるで今の体が自分のモノではないような感覚も微妙に感じてはいるが、そんな言い訳は通用せず俺が彼女の人生を滅茶苦茶にしてしまったことに変わりはないのだ。

「……………」

 目から光は消え、枯れることのない涙を流しながら志穂は俺に背を向けた。その背中から感じるのは途方もない悲しみ、目を離せばすぐにこの世から消えてしまいそうな儚ささえ感じさせる。
 ……このまま関わらなければ俺には何もない。悲しむのは志穂だけで、俺には一切何も降りかからない。別に抱いたとはいえ子供が出来たわけでもない、全て志穂の自業自得……と、そう思って切り捨てることが出来れば遥かに良かったんだがな。

「……待て、志穂」
「!」

 このまま志穂は家に帰っても、そこに居場所なんてないのだろう。妹からも、親からも、学校に行けばそれこそ多くの人間から蔑みの目を向けられる。そうなってしまったらこの子はおそらく……嫌な予感が頭に浮かび、俺は頭を振った。
 なあ俺、どうせならもう少しだけ早く今みたいになってはくれなかったのだろうか。

「うちに来るか?」

 そう志穂に聞いてみた。
 正直なことを言えば、これでもし志穂が首を振って俺の前から去ればそれこそ忘れるつもりだ。最悪だと、無責任だと罵声を浴びせられたとしてもそうするつもりだった。さっき志穂に向かって彼女を拒絶する言葉を放った俺を受け入れはしない、そう思った俺だったが……彼女は涙を流しながら俺の胸元に飛び込んで来た。

「行きます……行かせてください……っ!」

 この子にとって、唯一の希望は俺だけか。何ともクソッタレみたいな希望もこの世にはあったもんだ。俺と志穂は決して恋人なんかじゃない、だというのに今目撃してくる年寄りはあらあらまあまあと微笑ましそうに見つめてきやがる。
 とはいえ、いくら見ず知らずの人間とはいえお年寄りに睨みを利かせるような真似はしたくない。俺はそのまま志穂の肩を抱いて家に向かおうと思ったのだが、不思議そうに志穂は俺の顔を見上げていた。

「どうした?」
「いえ……少しだけ雰囲気が変わったような気がして」
「……あ~」

 それは俺も思ってるよ。けど、俺の中身が変わったとかそんなことは断じてない。だからこそ、志穂が言うように雰囲気が変わったというのは自分では分からなかった。

「まるで昔の……ううん、何でもない」
「そうか?」

 何かを言いかけたが俺は特に気にしなかった。それから薄暗くなった道をある程度歩いていると、ふと志穂が口を開いた。

「涼太君、やっぱり私帰るね」
「……そうか」

 少し残念に思ったのは言わないでおこう。ただ、さっき浮かべていた悲しみの表情は既に志穂にはなかった。いつも俺に見せていた笑顔である。それはそれで変わり身が早すぎてビックリするが、まあ安心したのは確かだ。

「その……学校を辞めるわけにはいかないし。卒業まではちゃんと通うつもり」
「そうか……なあ志穂」
「何?」

 ストレートに俺は聞いてみた。もしかしたら、それを考えてしまったから。

「妙なこと考えるなよ?」
「妙なこと……あぁ……ふふ、心配してくれるの?」
「当り前だろ」
「ありがと。大丈夫だよ。流石にそんなことはしないって」

 どうだかな、さっきの表情は明らかに死ぬつもりの顔だった。今は見る影もないが、あんな顔をみてしまっては気にしてしまうのも当然だろう。

「ねえ涼太君、明後日からお休みだから泊まりに行ってもいい?」
「大丈夫だ」

 俺が住んでるアパートには誰も居ない、高校生で一人暮らしってのは色々と不便なこともあるが自由でもある。だから志穂がうちに泊まりに来ても何かを言う奴は居ない。

「また……」
「……?」
「飯、作ってくれ」
「あ……うん!」

 嬉しそうに笑みを浮かべた志穂は手を振って背を向けた。その背中を見て俺は良かったなと心からそう思えたが、同時にそれで安心してしまう俺も大概だなと苦笑する。

「さて、帰るか」

 明後日から休みってことはたぶん、明日の夕方から志穂は来るつもりかもしれない。だとすると少し家の片づけをしないとな、そう俺は考えながら帰路に着いた。

 なあ母さん、天国から見守ってくれてるか? 一人の女を不幸にした俺に泣いてるかもしれないが、遅いけれど変わってみようとは思う。本当にどうしてこう思ったのかは分からない、でもそれも俺だと心は不思議と納得していた。

 天河《てんかわ》涼太《りょうた》、遅くなったが真っ当に生きてみるとしますか。

 ……遅いかもしれんけど。




※後二話ほど続きが眠っていたのでその内投稿します。
何も考えずに昔書いていた奴なので内容はまあお察しです。

2件のコメント

  • 埋蔵金探しの旅に出たい‼️笑
  • 付き物が落ちた…確かに。それか前世の記憶取り戻したとか、憑依転生もあり得そうな気がします。

    先が気になる作品です♪
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する