こんな感じの物語ですね。
投稿するその瞬間まで是非お待ちを!
↓↓
『やっちゃったね……てへっ』
『やっちゃったねじゃないんですよ! ……俺が先輩に文句を言えるような立場じゃないですけど!!』
ずっと、脳裏に残り続ける先輩とのやり取りだ。
事の発端は先週の金曜日……家出した本宮先輩を家に泊めた夜、先輩に流されるように俺は大人の階段を上った……否、上ったなんて生易しいものではなく、文字通り駆け上がった。
「っ……」
思い出すだけで体が熱くなる。
先輩の押しに負けたとはいえ言い訳は出来ない。俺もやっぱり下心があったし、そういうことにも興味があった……童貞だったしな。
「お~い椿」
「どうしたのかな?」
何も分からなかった……先輩に色々と教わりながらだったけど、それでも初めてのことだからとにかく気を遣った。
その度に先輩が優しいだとか、気にしないでとか言ってくれたのは嬉しかったけど、自分でも驚くくらいに途中からは本能に突き動かされたようだった。
「椿!」
「椿君!」
「っ!!」
突然聞こえた声に、ハッとするように顔を上げると、すぐ傍に二人の男女が立っていた。
「奏斗に莉緒?」
「おう」
「うん」
二人とも、俺にとってもっとも仲の良い友人だ。
というのも彼らとは中学時代からずっと一緒で、クラス分けは一度も離れたことがないほどである。
「友人がボーッとしてたら気になるからな」
富岡《とみおか》奏斗《かなと》――爽やかな笑顔が似合うイケメンの奏斗は、サッカー部に所属する次期キャプテン候補である。
「何かあったの? 凄く顔赤いし……熱でもあるんじゃない?」
朝倉《あさくら》莉緒《りお》――小柄な体型に似合うと言ったら怒られるが、愛らしい笑顔が特徴の莉緒はサッカー部のマネージャーで、もっと言えば奏斗の幼馴染になる。
「大丈夫だよ全然。心配かけてすまん」
「ほんとか?」
「何かあったら言ってね?」
「……はぁ、俺はその友情に泣きそうだわ」
しくしくと泣き真似をすると、分かり切ったことでも二人がよしよしと頭を撫でてきた。
「大丈夫そうだな」
「そうだね」
「だから言ったろ? 大丈夫だって」
そう言ってようやく、二人とも安心してくれたようだ。
この気の合った様子からも分かるように、二人は幼馴染であり恋人同士でもある……正に漫画のような関係に俺も憧れたけど、それ以上に仲の良い二人の様子は本当に微笑ましいんだ。
「……うん?」
その時、ポケットに入れていたスマホが震えた。
何だろうと思い手に取って画面を見た瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。
『昼休み、三階の空き教室に来て。場所は分かるよね?』
それは先輩からのメッセージだった。
今まで俺のアプリには先輩のIDは入ってなかったけれど、うちに泊まった時にせっかくだからと交換したのだ。
「おい、また顔が赤くなったけど」
「さっきより酷いよ……?」
「だ、大丈夫だ!」
いかん……先輩のメッセージにめっちゃ意識してしまってる。
その後、二人の追及をのらりくらりと躱したところでちょうど、担任の山本先生がやってきて朝礼が始まった。
「今日も一日、みんな頑張ろうな!」
「は~い」
「うっす~」
朝礼中、俺は全くと言っていいほど集中出来なかった。
脳裏に浮かぶのは先輩とのやり取りばかりで、明らかに自分でも拗らせているのがよく分かる……とはいえ、それだけ衝撃的な時間を過ごしたのだから仕方ないと、そう気持ちを切り替えるのも容易なのは助かる。
そうして時間は過ぎ去り、先輩が指定した放課後になった。
「し、失礼します……」
「いらっしゃ~い」
空き教室に向かうと、既に先輩は来ていた。
金曜に出会った時と同じようにスマホを眺めていたが、教室に入った俺を見て先輩はスマホを仕舞い、クスッと微笑んだ。
「っ……」
突然の笑顔に、スッと視線を逸らす。
「視線を逸らすなんて酷くない?」
「その……緊張するんですよ分かってください」
「分かるよ。敢えて言ってる」
ツンツンと、先輩が頬を突いてきた。
緊張する俺とは違い、どこまでも余裕を崩さない先輩は流石だ……でも改めて思うことがある――本当に俺は、こんな綺麗な人と体を重ねたんだなって。
「今日、こうして椿を呼んだのは他でもないの。電話でも良かったけど、改めてお礼は言っておこうかなって」
「あぁ……そんなの全然良いんですよ」
「そうは言ってもスッキリしないじゃん?」
いや……色んな意味でスッキリさせてもらったんですけど。
(でも……ちょっと不思議だな。最初に会った時は不愛想だったけど、凄く笑ってくれてる)
そう……凄く笑顔が多い気がする。
別の学年で顔を合わせることはないし、教室では笑顔が多い先輩かもしれないけれど、でもこうして対面するとそれをとても感じる。
「あの日、泊めてくれてありがとう」
「……いえ、こちらこそありがとうございました」
ヤバイ……何を言えば良いのか分からないからこっちまでお礼をしてしまった。
「ふふっ……椿もお礼を言うんだ?」
「それは……はい」
「本当に面白い子だなぁ。流石、いきなり逆立ちをした変人」
「変人は止めてください!」
「どう考えてもあれは変人でしょ」
くぅ……否定出来ねえ!!
肩を揺らして笑う先輩は、心底楽しそうに言葉を続ける。
「アレが椿にとって嬉しい経験になったのなら何よりだよ」
「本宮先輩……凄かったです」
「正直に言うね。でもその呼び方は気に入らないね」
「え?」
「私たち、体を重ねた仲だよ? 名前で呼ぶことも許したし、あの時はちゃんと名前で呼んでくれたじゃん」
先輩はヌルリと体を寄せてきた。
肩に触れる弾力もさることながら、甘い良い香りが鼻孔をくすぐる……あの日にギュッと抱き着いた際にも同じ匂いだった。
「ほら、名前で呼んで?」
「……ひなた先輩」
「あの時は呼び捨てだったのに……ま、今はそれでいっか」
不満そうにするひなた先輩が可愛い……じゃなくて、俺には分からないことがあるんだが……それはこのひなた先輩の態度だ。
一夜を共に過ごした……というのは大きな出来事だけど、こんなに態度が変わるほどのものなのか? 俺にそういう経験がなかったので分からないだけなのかもしれないが、とにかくひなた先輩の態度が優しくて逆に混乱してしまう。
「それにしても……あははっ、本当にあの日は面白かった。椿が逆立ちしたのも面白かったし、家に着いてすぐのやり取りもね」
「あ~……」
ひなた先輩にそう言われ、俺も即座に思い出した。
『先輩……!』
『なに?』
『その……俺、同年代の女子が家に来るのって初めてなんです。理性を失って猿になるつもりはないですけど、もしも俺が間違って先輩に手を出そうとしたら遠慮なくぶん殴って……いや、殺してください!』
『こ、殺すなんてことしないって! というかその時点でもう理性を失ってるでしょ君!』
確かにひなた先輩が言ったように、その時の俺は理性がぶっ飛んでた。
でもちゃんとそういう風に自分なりに予防線を張ったのに、ひなた先輩はエッチに迫ってきて……結局俺は流されてしまった。
「私は自分の体とかに自信を持ってるし、テクニックもそれなりだとは思ってる。だから椿の初めてにしては刺激が強いかなぁって思ったけど、私たち……体の相性凄く良かったじゃん?」
「っ……そうなんでしょうか」
「相性だけじゃなくて、椿の慣れていないなりの思い遣りと言うか……優しい部分に信頼を置いたのも大きいかなぁ。だから私の方も甘えたいって思ったし、こうしてまた君と会おうと……思ったし?」
髪の毛を弄りながらひなた先輩は視線を行ったり来たりさせる。
可愛いなぁと再び思うのはもちろん、両耳に付けられたイアリングだったりを見るとギャルっぽいなぁとも思う……今までにあまり接してきたことのないタイプの人だなひなた先輩って。
「その……電話にしろメッセージにしろ、迷惑かなと思ってこっちからしなかったんですけど気になってたんです」
「気になってた?」
「お母さんとは……どうなったかなって」
「……………」
先輩はポカンとした表情をしばらくした後、相変わらず喧嘩は続いているけど心配するほどじゃないと言ってくれた。
それから昼休みのギリギリまで楽しくお喋りをした後、別れ際に俺はつい言ってしまったのだ。
「先輩、今週も大丈夫なんですが……どうです……か?」
何を言ってるんだと自分のぶん殴りたい衝動に駆られたものの、先輩は指をツンツンさせながらこう言った。
「じゃあ……またお邪魔しよっかな」
ということで、また先輩がうちに来ることが決まった。