俺は自分のことを変態とは思いたくない。
「……ごくっ」
だが、目の前の光景に手を伸ばしたくて仕方なかった。
「じっくり見られてるね」
「ちょっと恥ずかしいけど、こういうのも悪くないかな?」
恥ずかしそうに、けれども挑発するような表情をしているのはひなたさんとありささんだが、今日はいつもと違うものがある――それは目の前に立つ二人が制服ではなく、体操服姿ということだ。
体育を終えた後だというのがよく分かるくらいに汗だくの二人……しかも場所がこの体育倉庫という閉鎖された空間だからこそ、二人を原因とした甘い香りが充満している。
(まさか……あの俺の発言がこんな事態を招くとは……)
実は、この前に俺は一階の廊下で彼女たちに出会っていた。
職員室からの帰りに体育館に向かう二人を見つけ、そこで少し会話をする機会があった。
『ねえねえ椿君。体育で思いっきり汗を掻くことになると思うけど、汗だく体操服姿のあたしたちに興味ある?』
『あります……あ』
『ふ~ん?』
興味あるかの問いかけに素直に頷いてしまった結果、こうして汗だくのひなたさんたちを前にする機会をもらったというわけだ。
「正直すぎて引きませんでした?」
「全然? むしろ椿がそうしたいならしてあげたいからね」
「うんうん! もっとお姉ちゃん色に染めちゃうぞぉって感じ♪」
正直すぎるというか、汗だくの女子を見たいなんて言う人はそうそう居ないはず……いや、そんな状態の女子を見ること自体は珍しいことじゃないけれど、こうして示し合わせて見せてもらうというのが凄くいやらしく思えてしまう。
でもひなたさんもありささんも乗り気のようだし、もう少し近付いてみるか……!
「……でも、汗臭いと思うよ?」
「あ~……確かにそれはあるかもね」
汗を掻けば誰だって汗臭くなるものだ。
さっきまで乗り気だったのにこうして目の前に立てば、流石に汗臭さが気になるのか二人は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「え? めっちゃ良い匂いしてますけど……嘘吐いてないですよ? ここに来てから甘い香りしかしてないです」
「……ふふっ、そっか」
「それなら安心だねぇ」
ひなたさんとありささんがグッと距離を詰めた。
嘘を言っていない俺の言葉が真実だと告げるように、二人から放たれる匂いが更に強くなった。
俺もそうだが、ひなたさんたちも気分が昂っているのが分かる。
「今日は私がキスをするから、ありさにはそっちを譲ってあげる」
「そう言わないと文句言ってたよあたしは。じゃ、やっちゃいますか」
一昨日とは反対になるかのように、ありささんが屈んでひなたさんがそのまま顔を近付けてきたので、身を任せるように二人に応える。
ひなたさんとキスをしながら、ありささんにお世話をされ……そんな至福とも言える時間が数十秒だけ続いたところでひなたさんがキスを止め、体育倉庫の入口に目を向けた。
「椿、ありさもちょっと隠れてて」
「え?」
「は~い。椿君、こっちに来てね」
「うおっ!?」
ひなたさんを残し、ありささんに腕を引っ張られた。
「ちょっとお姉ちゃんと隠れようね」
「は、はい……っ!?」
「声が漏れないようにこうしてあげる」
ちょうど跳び箱を背にするように座って隠れた俺たちだが、ありささんは声が出ないようにと俺の頭をその胸元へと抱き込んだ。
文字通り声を出せないように顔を塞ぐという手法だが、まさか巨大なおっぱいで顔を塞ごうとするなんて予想出来るわけがない……むわっと鼻の中に入り込む香りに頭がクラクラしてきそうだ。
「大丈夫だよ、ちゃんとこっちのお世話も続けるからね」
「っ!」
ありささんのお世話が再開したと同時に、後ろでも動きがあった。
「本宮さん、何をしているの?」
「別に? アンタこそどうしてここに?」
「あなたたちが戻ってこないから気になったの……って叢雲さんは一緒じゃなかったのかしら?」
「ありさはお手洗いじゃない?」
体育倉庫に入ってきたその人の声には聞き覚えがあった。
相変わらず俺の目は巨大な二つの膨らみによって閉じられているが、その声の持ち主はおそらく……生徒会長の四宮《しのみや》うつほ先輩だ。
「それで何をしているの? まさかこのまま次の授業をサボるつもりなのかしら?」
「そんなことしないっての、ほらとっとと帰りなよ。こっちも用を済ませたらすぐに戻るから」
「……体育倉庫に残ってする用って何なのよ」
四宮先輩が呆れているが、確かにそれはそうだ。
「それはそうだねぇ……」
ありささんも同じことを思ったのか頷いている様子だ。
それからも四宮先輩はすぐに居なくなることはなく、心底面倒そうなひなたさんと会話が続くのだが、事情を知らない人……しかもあの生徒会長にバレたらどうなるんだろうという謎のスリルがあった。
「あの子って凄い厳しいからねぇ……いつも仏頂面で美人なのに勿体ないっていうか」
「……………」
「それにしても……あたしが言うのもなんだけど、この状況を楽しむくらいの余裕はあるんだね椿君は♪」
いや……一番楽しんでるのはありささんでは?
そもそも学校でこんなことをしていること自体バレるのはマズイのに、ありささんはバレてもどうにかなると言わんばかりに余裕を崩さない。
「ひなたがうつほを相手してるし、キスもしちゃおっか」
胸が離れたかと思えば、ありささんの唇に塞がれた。
その拍子に少し肘を跳び箱に当ててしまい、ガタッと音が鳴ってしまったが、何を血迷ったのかありささんはキスも、手の動きも止めることはしない。
「何、今の」
「さあね。ほら、とっとと帰りなよ」
「……分かったわ。授業に遅れないようにしなさいよ?」
「分かってる」
四宮先輩が体育倉庫を出て行ったことで安心して気が抜けてしまい、我慢していたものを吐き出す。
恍惚とした表情のありささんが手の平を舐める中、ひなたさんが大きなため息を吐きながら戻ってきた。
「ったく……良い所を邪魔されちゃった」
「あたしは最高の時間だったけどねぇ♪」
「……ちっ」
ひなたさんは舌打ちをした後、スッと顔を寄せてきた。
そのままキスが始まったが、まるで四宮先輩とのやり取りで溜まったストレスを発散するかのような激しいキスだ。
「わおっ、凄く情熱的」
ひなたさんとのキスに夢中になるのも決して悪くはないが、俺が少しだけ考えることがあった――前回も、そして今回も言えることとして、俺だけがこんな良い思いをするだけで何もしないのはどうなんだろう。
そんなことを考えたからか、俺は自分から二人にこんな提案をした。
「今週も一人なんですけど、良かったら泊まりに――」
「行く」
「絶対に行く!」
「あ、はい」
今週の金曜日も母さんが家に居ないということでの提案だったが、二人が泊まりに来ることが速攻で決まった。
その後、二人と別れて教室へと戻ったが……俺の体にはひなたさんとありささんの甘い香りがこれでもかとこびり付いており、授業中もその匂いが気になって仕方なかった。
「……はぁ、終わったか」
「おつかれぃ」
「奏斗、椿君もお疲れ様」
終礼が終わり、自然と奏斗と莉緒が集まった。
そのまま三人で下駄箱まで向かい、サッカー部である二人とはそこで別れた。
「さ~てと、帰りますか」
……早く、金曜日にならねえかなぁ。
そんな風に今の段階からドキドキしていた俺だったが、まさかの人物に呼び止められた。
「そこの君――三笠君だったわね」
「……え?」
その声は、あまりにも直近で聞いたばかりの声だった。
「少し話を聞きたいのだけれど、時間はあるかしら?」
俺を呼び止めたのは四宮先輩……生徒会長だった。
とまあこれは全然真ん中くらいなんですけど、大分進んだので進捗具合の報告がてらのちょい見せになります。
ちょっとエッチだぜ。