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偶にはね……偶にはね!

「日本ってなんだ……? 漫画アニメ……巨乳妹大大大好き……??」
「どうしたのですか? お兄様?」
「いや、何でもない」

 隣に立つ妹の頭を撫でながらそう言った。
 嬉しそうにはにかんだ妹は、頭から離れた手を視線で追いかけ、逃がさないと言わんばかりに手を握ってきた。

「ふふっ」
「……やれやれ」

 隣で微笑むのは妹のベルだ。
 腰まで伸びる白銀の髪に至宝と呼ばれることもある可愛らしい顔立ち、スタイルも抜群で胸元は豊満と……俺の中にある不思議な記憶のせいもあってか、妹だというのにドキドキしてしまう。

(……妹にドキドキすんじゃねえよ馬鹿野郎が)

 そんな妹にドキドキするのには理由がある――それは、つい最近になって脳裏に片隅に蘇った記憶だ。
 日本、漫画、アニメ、巨乳妹モノ大好きなど……全くもって聞くことがなかった単語もそうだが、まるで自分ではない誰かの記憶を眺めているような感覚だ。

(エロゲとかなんだよ……AVって何!?)

 この記憶の持ち主は、なんでこうも妹とエッチなことばかりするモノを好んでるんだ……? そのせいで欲情はしないけど妹のことを変な風に見ちまうじゃねえか!

「お兄様、本当に大丈夫ですか? お顔が赤いですよ」
「大丈夫だ……!」

 頬に添えられた妹の手を優しく掴んで離した瞬間だった。

「トーヤ・フォーリナー! 前へ!」

 俺の名前が呼ばれ、試験官の男性が近付いてきた。

「それではついてきなさい」
「はい」
「頑張ってください、お兄様!」
「あぁ」

 試験官についていき、水晶玉の前に立った。

(属性の測定か……果たして何属性だろうな)

 俺が産まれた王国――ロンギヌス王国だけではなく、この世界では十五歳の誕生日を機に全ての人は属性の判定を義務とされている。
 土、風、水、火の四属性が基本とされており、更に特別な人間には上位属性の光と宿るとされているが……果たしてどうなるか。

「それではトーヤ・フォーリナー」
「はい!」
「触ってください」

 属性を判定するマジックアイテムの水晶玉に触れた瞬間、黒い渦のようなモノが発生したものの、すぐに消え去った。
 なんだ……今のは。

「こ、これは……すぐに知らせなさい」
「分かりました!」

 試験官たちが騒がしくなり、俺はすぐにその場から退かされただけではなく、手首に鎖を付けられて拘束された。

「な、なんで!?」
「黙れ、このまま貴様を連れて行く」

 そう言ったのは試験官だ。
 さっきまで浮かべていた穏やかな表情はなく、まるでゴミでも見るような目付きで俺を見下ろしている……何が起きてるんだ?

「あの、一体何が――」
「黙れと言っている」
「ぐっ!?」

 思いっきり頬を殴られ、口の中で鉄の味が広がった。
 涙が出そうになるのを堪えてそのまま連れて行かれるが、結局俺は一緒に来た妹と会えるわけもなく、王たちが住まう城へと向かうのだった。
 貴族とはいえ、そう頻繁に城に来ることはない。
 生誕祭やパーティくらいではあったが、その度に妹に近付こうとする男を振り払っていたが……まさかこんな形で来ることになるなんて。

「王よ――闇属性に目覚めた者を連れてまいりました」
「あぁ、ご苦労であった」
「……闇属性?」

 闇ってかっこよくね!? 最高の力じゃね!?
 なんて言葉が片隅の記憶から漏れ出そうになったが、闇属性ってかつて滅んだ魔族しか持たない力だろ……? どうしてそれが……俺に?

「トーヤ・フォーリナーか……まさかフォーリナー家の者とはな」
「あの……」
「喋るな」
「っ!?」

 ガツンとまた重めの一発をもらった。

「止せ、どうせすぐに死ぬのだから喋らせてやれ」
「はっ」
「……え?」

 待て……今、王様はなんて言った?
 周りを大量の騎士に囲まれているのもそうだが、王様だけでなく他の王族の方たちも俺を見る目は冷たい……くそっ!

「死ぬってどういうことですか?」
「うむ、教えてやろう――トーヤ、お主も知ってるだろう? 闇属性とはかつて滅んだ魔族しか持たぬ属性だと」
「……はい」
「実際はその通りではあるが、稀にあるのだ。本来宿るはずのない闇属性が人の身に発現することがな」
「……………」

 俺はただ、王様の言葉に耳を傾けることしか出来ない。

「我ら人は、かつて魔王を長とした魔族に蹂躙された過去を持つ。勇者と相打ちになり、魔王は死に魔族も滅んだが……我らに刻まれた傷はあまりにも大きいのだ――故に、闇属性が発現したものは大いなる災いを齎す種になるかもしれん可能性を考慮し、見つけ次第殺すのだ」
「な……っ!?」

 前半については、世界の歴史として習ったことだ。
 だが人に闇属性が宿ることも、ましてや見つけ次第殺すという事実も今初めて知った。

「お主が驚くのも無理はない。こうやって予め処理することで、闇属性の危険を排除し民たちに不安を与えないようにしている」
「……………」
「そしてもう一つ決まりがある――闇属性が発現した者の家族も例外なく皆殺しにするのも決まっている。これは神を主とし、世界の安寧と秩序を守る教会からも万が一があればそうするように伝えられておる」
「そ、そんな馬鹿なことが許されるわけ――」
「王の御前だぞ」
「ぐあっ!?」

 今度は、剣の柄で背中を殴打された。
 待て……待て待て待て……一体何を言ってるんだ……この王は、ここに居る者たちは一体何を言ってるんだ!?
 俺だけでなく家族も皆殺し……!?
 ベルも……父さんと母さんも殺されるってのか!?

「お兄様!」
「トーヤ!」
「大丈夫!?」

 地面に這いつくばる俺の元に、同じように拘束されたベル……そして父さんと母さんの姿があった。

「フォーリナー家の者たちよ、災難であったな? だがこれは仕方のないことなのだ。そなたらも、そしてこの少年も悪くはない――悪いのは全て闇属性なのだから」

 そこからベルたちにも同じ話がされた。
 俺は口を挟むことも出来ずに、絶望に顔を伏せるベルたちを見つめることだけだった。
 ごめん……ごめんなさいと俺もまた絶望していた。
 全然受け入れられることではないが、それでもここまで大掛かりな事態になって実は嘘だったなんてパターンはないだろう……だが、俺は諦めることなんて出来なかった。

「王様! どうにか……どうにか出来ないでしょうか! 妹と両親は何も関係ない……殺すなら俺だけを殺せばいいはずです!」
「お兄様……!?」
「トーヤ……っ」

 俺は強く懇願するように叫んだ。
 試験官や騎士たちが再び俺に暴力を振るおうと近付いてくるが、俺はそれでも叫ぶことを止められない……死ぬのは嫌だ――でも、俺の死が避けられないならせめて妹と両親は助けてほしい……そう思うのは誰だって普通のことだ!

「ふむ……良いだろう」
「……え?」
「王!?」
「何を!?」

 俺だけでなく、他の者たちも驚いたように王様を見つめた。

「かつて、闇属性の力を持った者を処断しようとした時……魔力が暴走して周りを巻き込んだ事例もあったはずだ。だからこそ、そなたが自らデッドアンダーグラウンド――死の世界に入るというなら家族の命は助けてやっても良い」

 デッドアンダーグラウンド……また聞いたことのない言葉だ。

「それで……本当に家族は助けてくれるんですか?」
「もちろんだ。こちらとしても魔力を暴走させて被害が出るよりは遥かに良いからな」
「……分かりました」

 死の世界については、すぐにまた説明をしてくれるらしい。
 頷いたことで俺がその世界に旅立つことは決定し、すぐに決行されるとのことで……家族と最後の会話が許されるのだった。




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