色々とあって不安定な部分がありましたが、取り敢えず持ち直しました。
新作とかに関してですが、10万字……単純計算で三十~三十五話くらい溜めて投稿することにしていきます。
三週間か、一カ月ほどお待ちください。
↓↓冒頭になります。
「ったく……明日が休みなのと、母さんが家に居ないからって遅くなっちまったな」
暗くなった夜道を、そうぼやきながら歩いていた。
時刻は既に二十時になろうとしており、高校生が出歩くにしては少々遅い時間と言えるだろう。
「偶には中華料理も悪くないなぁ……くっそ美味かったわ」
とはいえ、流石に食いすぎたかなと腹を擦る。
「今度は休日にでも友達を誘って……あん?」
そろそろ家に着こうかといったところで、珍しい人を見かけた。
既に閉まった店のシャッターを背にするように、ジッとスマホを見ているその人……立ち止まって見ていたせいかと目が合った。
「あ……」
「……………」
目が合ったその人は、俺と同じ学校の制服を着た先輩の女子で、俺はその人のことを知っていた。
「……本宮《もとみや》先輩」
本宮ひなた先輩。
二年の先輩でそこそこ有名な人なのだが、何が有名かと言われたらとても美人だという点だ。
肩にかかるほどの黒髪、胸元の外されたボタンによって見えてしまう豊満な谷間、短いスカートから覗くムチッとした太もも……肉体の面だけでも優れた物を彼女は持っているが、とにかく顔立ちが綺麗だ。
(……相変わらずエロいし美人だなこの人)
先輩ということもあって話す機会は全くないし、見ることがあっても学校の中ですれ違う程度……そんな人でもやはり男としては、美人な先輩という部分においては見てしまうわけで。
こんな人が彼女だったりしたらどれだけ嬉しいんだろうとかって、考えたことも少しあった。
「本宮先輩ですよね……ここで何してるんですか?」
「君は……えっと」
「三笠です――三笠《みかさ》椿《つばき》」
先輩はあ~っと納得したような顔をしたが、別に知っていたからというわけではなさそう……そりゃそうか。
先輩は俺から視線を逸らし、手元のスマホに集中した。
「……………」
「……………」
お互い無言になり、気まずい状態が続く。
「えっと……」
「……………」
しばらくその場に居続けたが、空気に耐え切れず俺は先輩の前を通るようにして素通りした。
どうしてこんな夜に外に居るのか、どうして制服のまま家に帰った痕跡すらないのか……別にあの先輩には先輩なりの考えがあるんだろうし、俺が気にしても仕方ないかと考えて帰路を歩く。
「……って雨?」
そうしてもうすぐ家に着こうとしたところで、強烈な雨が降ってきた。
「確か夕方から降るって言ってたっけ? 結局降らなかったから油断してたわ」
雨が降り出した瞬間に走ったものの、そこそこ濡れてしまった。
風邪を引くのも嫌なのですぐにシャワーでも浴びてしまおうと、そう思ったのだが……俺はどうも外の様子が気になって仕方ない。
「……………」
いや、正確にはこの雨の中……先輩はどうしたんだろうって気持ちが強くなったせいだ。
「いやいや、流石に帰っただろ……それに俺が心配したところでどうなるんだって話だし」
それに何より……全く話したことのない男が、これ幸いにと声をかけてくるのは女性からすれば、下心があると思われてもおかしくない。
「そう思われるのは嫌だけど……でもないわけじゃないもんなぁ」
そこが悩みどころだ。
下心? あるに決まってるし、そもそもあんな女性が恋人だったらどれだけウハウハな青春を送れるんだとドキドキする。
「……………」
さてと、日曜まで引き延ばしにするつもりだった宿題をやっちまおう。
そう思って部屋に戻ろうとしたが、俺が向かった先は玄関だ。
「ほんと、今日の俺はどうかしてるぜ」
傘を一つ広げ、もう一本予備を手に外へ出た。
ちなみに帰ってから軽くニュースで見たけど、明日の朝にかけて警報級の雨になるらしい。
「警報級の雨だぞ? こんな中でまだ居たら逆立ちするわ」
ガハハッと笑いながら先輩が居た所で向かう……うん?
「……うん?」
……うん?
「……え?」
おや……おかしいな、人影が……。
まさかまさかそんなわけがと思いながら近付いて行けば、途方に暮れたように空を見上げる先輩がまだそこに居た。
「……君は」
「何してんですか先輩」
再び現れた俺に対し、目を丸くする先輩。
「……どうしたの?」
「どうしたのはこっちの台詞でしょ」
本当に残っているとは思わなかったので驚いたが、流石に僅かな屋根の下とはいえ横殴りの雨は先輩の体を濡らしている。
俺はすぐに近付き、先輩に傘を渡す。
「これは……?」
「使ってください。まあこんだけ激しい雨だと、足元は意味ないとは思いますけどね」
「……………」
「……ほら、早く受け取る!」
「う、うん!」
俺の大きな声にビックリしながらも、傘を受け取ってくれた。
「それで……どうしてまだここに居るんですか?」
「……そっか、心配させちゃったのかな?」
「いつもこんなところで見ないですし……雨も酷かったですから」
「……ま、そうだね。ありがた迷惑だなんて言えないし、ちょっと話を聞いてもらおっかな」
「はい」
「家出したんだよ」
「……ひょ?」
家出……? 家出ってあの家出?
それから詳しく聞いたのだが、先輩は俺と同じ母子家庭らしいらしいが母親との仲がすこぶる悪いとのことで、今日も家に帰った時に凄まじいまでの言い合いがあったと教えてくれた。
「それで、顔を見たくなくて出てきたってわけ」
「なるほど……」
「ホテルは高いし、友達は……揶揄われそうなのが面倒だし、元カレに頼るのもすっごく嫌だし」
「はぁ……」
先輩の様子からは、どうあっても帰りたくないという意志を感じた。
ホテルとか言ってたけどこの近くにはないし、タクシーなんて使えばもっとお金もかかる……それならと、俺は言ってみた。
「今日……俺んち誰も居ないんです。来ますか?」
「え?」
言ってすぐ、何を言ってるんだと俺は後悔した。
ただ一言だけ言い訳をさせてもらえば、家を出る前の俺は確かに下心がどうとかの話はしていたが、今の俺は自然に言葉を発していたのと、素直に心配していたのもある……というか、逆にこのままさよならというのもスッキリしない。
「えっと……」
「いいの?」
僅かな期待を滲ませた先輩の言葉に俺は……頷くのだった。
「それじゃあ……行かせてもらおうかな」
「は、はい!」
……おいおい……おいおいおいマジか!?
どんなに先輩が困っていたとしても、普通に断られると思っていただけに、やっちまったという感覚の方が強い。
「どうしたの?」
「あぁいえ……」
スッと傍に近付いた先輩が顔を見上げてきた。
ただでさえ端正な顔立ちが近くに来たのもそうだが、雨で濡れた髪と薄ら透けた制服……そこから滲む黒いレースの下着が凄まじくエロい。
「ちょ、ちょっと失礼します!」
「な、なに!?」
咄嗟に俺は持っていた傘を先輩に渡し、出来るだけ濡れないように店の壁際で逆立ちをした。
「……頭、大丈夫?」
「その……これには理由がありまして」
「理由?」
「流石にこの土砂降りの中に先輩が居るわけないと思ってて、もし居たら逆立ちするわって自分に言ったもので」
「……ふふっ……あっはっはっはっ!」
「そんな笑います?」
「だ、だってそんな風にする人初めてだもん」
……こんな風に笑ってくれるのなら悪くはないか。
その後、逆立ちを終えて歩き出す……向かう先はもちろん、俺の家だ。
「いやはや、まさかこんなことになるなんてねぇ……優しい後輩が居て私は嬉しい限りだよ」
「俺だって驚いてますけどね」
程なくして家に着いた。
こうして同年代の異性を家に上げるのは経験がなくて緊張するが、変なことはせずに明日先輩は帰るだけ……それだけだ!
こうして、俺は先輩を家に招いた。
これはただ、先輩を心配に思ったから……だがこの出来事が後になって決定的だったと俺は理解する。
この俺の行動が、それからの生活を一変させてしまったのだから。
「……え?」
「すぅ……すぅ……」
朝、俺は驚愕した。
同じベッドの中で眠る先輩は裸で、俺もまた服を着ていなかった……そこで全部、思い出した。
「……やっちゃった」
そんな乾いた声が、口から漏れるのだった。