はじめまして、もしくは、こんにちは。
郷倉四季です。
今回の「拳銃と月曜日のフラグメント」は田中さんの話です。
「完璧な朝と牛乳多めのホットコーヒー」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889114358/episodes/1177354054889187433【一郎】と書きましたが、僕は田中さんと呼んでいます。海辺のカフカの「ナカタ」さんを意識したのかな? と今になっては思います。
ちなみに、僕が初めて書いた田中一郎さんの話は以下のような内容でした。
――「ねぇ行人くんって万引きしたことあるかい?」
突拍子のない話題に僕は動きを止めた。
そんな僕を無視して、田中さんは赤らんだ顔で滔々と続けた。話をまとめると以下のような内容だった。
地元を離れていた昔の同級生から連絡があり、一緒に飲みに行った。海老嫌いが相変わらずの同級生がふと
「お前、変わってないな。詰まらない奴のまんまだわ」
と笑った。
天気の話でもするような軽い物言いだった。田中さんは学生時代にも彼にそう言われたことを思い出した。
「本当にね、それが私の美点だと言わんばかりの清々しい顔で言うんだよ。あんまりな奴だろ? でもね、それが彼にとって私への最大の褒め言葉だって本気で信じているんだよ」
「なるほど」
「お酒も進むとさ、そいつ別居している私の家内に電話をして
『相変わらず、こいつ詰まんねぇよ』
って嬉しそうに言うんだ。やめろって言うのに、やめないんだよね。勘弁してほしかったよ」
「あ、でも、その時、奥さんと少し喋れたんじゃないですか?」
「まぁ二言、三言だけね」
と言った田中さんの頬は少し崩れていた。
田中さんの同級生はいい仕事をしたな、と思った。
「でね、私が詰まらない奴だってのは分かった。だけど、ずっとそうあり続ける必要はないじゃないか? 詰まらない奴っていう枠組みから抜ける為に何かしてみようと思ったんだよ」
「それが万引きですか?」
「スリルがあるだろ?」
「刺激を求める中学生には有効かも知れませんけど」
「南風に背中を押されて触れる」より。
詰まらないことが美点のおっさん。
それが田中さんでした。
今回の「完璧な朝と牛乳多めのホットコーヒー」は「南風~」よりも少し前の時系列で、同居人が生きている頃を思い返していますね。
今回読み返してみて「詰まらない」というか、「ダメなおっさん」な気が僕はしてきました。
「結婚しなくて、良かった。良かったなぁ」
って、同居人が言っていますけど、甘やかされ過ぎだから。
最後にぬるっと家族のもとに戻っちゃってますし。
けれど、詰まらないことが美点の田中さんだから、同情とか憐れみという感情を使って離婚も結婚もしなかった。
今回はそれだけ書きたかった、と言って良いです。
結婚という制度に対して、割れた茶碗を使っているようなものだ、と丸谷才一が「たった一人の反乱(1972年)」で書いています。
それを読んだ時の違和感が僕の中に棘のように刺さっていて、時々なにかを書きたくなります。割れた茶碗を今後も使っていけるのか、あるいはどこに制度として割れているのか。
前回は「もっともらしい言い訳」は幼馴染の話。
今回は結婚の話。
って、まとめると分かり易いかも知れないです。
僕は僕の中にある違和感を文章にしているみたいです。
以下は、田中一郎さんが登場する話です。
「眠る少女」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885776990 田中さんが路上ライブをしていたり、娘のあずきがバンドのボーカルをしていたりする話です。
「南風に背中を押されて触れる」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888222742 田中さんが万引きしたり、「あの海に落ちた月に触れる」の行人くんがナンパしてたりする話です。
あと、前回の「もっともらしい言い訳」のおかげなのか、「あの海に落ちた月に触れる」が最近読まれています。
ありがとうございます。
こちらです。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886476922 さっくりと読める青春小説になっています。
よろしくお願いします。