ふと道すがら、目に留まる人がいる。
通勤鞄に、ガサガサと鳴る紙袋、よくみれば
下に首を振り向けられた花束の柄を、握っている。
まず考えられるのは、転職だろうか。
黒いスーツのその人の背を見ながら、きっとこの人は、
いつか自分が書いたお話の、「あの人」だと思う。
想像の人物は、一生知り合うことが無くとも
もしかしたらどこかで、生きている人かもしれない。
そう考えると、無性に楽しくて
子どもの頃は、未来と世界に対して
そんな風に毎日、希望の影を求めていたなぁと思い出す。
確たるものの無いところ
知らぬ世界の大きすぎること。
その事実がもたらすのは、決して不安だけではなく
あっけらかんとした、期待でもあること。
自分の中から外へ、外から中へ。
血が廻るように想像がめぐる実感を、
なんとか、形に出来ないものだろうか。