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坑道エンジニアの世界

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本日のノルマ、列車を一両以上対岸へ渡し切ること。


手元の操作板はレールの回転盤を操作することができる。右へ回るボタンを押せば右回転。左へ回るボタンを押せば左へ回る。ボタンを押さなければ動かない。
なんて単調な仕事なんだ! 最初はそんなのでいいのかと喜んでいたが、仕事をしているうちにだんだんその考えが甘いことを思い知らされた。

坑道を行き交うトロッコたちは、四方八方のトンネルからやってきて、思い思いの別方向の坑道へと行きたがる。自分は彼らトロッコの示す方向へ線路の回転板を調整して彼らの橋渡しをすればいい。

けれどその操作板がおかしかった。
なんで回すか回さないかしかいらないはずなのに、ボタンが100個以上あるんだ?
しかもボタンを一個だけ動かしてもまともに動かない。中途半端な方向へ線路を向けるか、行き過ぎるか動かないかのどれかだ。
ボタンを組み合わせて押してみると、たまにちょうど良い方向へ回転盤が回ってくれることもある。けどそんなルーレットみたいなことをやって、1日にやってくるトロッコ100台分を全部さばき切るなんてことは不可能だ!!

整備士に頼んで操作板の修理を頼んでみたが、直せるのはボタンの数を減らすことだけで、しかも時間が経つとまたボタンが増えてくる。
こちらがイライラして操作板を叩くと、叩いた音が反響して機械が洞窟中で笑っているような音を出しやがる。

他の機関士はもっと上手くトロッコを捌いているのに、俺の交差点でだけはいつも大渋滞をしている。
だから今では、1日、いや1か月に1台のトロッコしか渡せないようになってしまった。


どうせ誰も求めていないとか、そういう余計な哲学的なことばかり考えてしまって生産的なことが考えられない。
楽しいとか楽しくないとかそういうんじゃない。


けどなあ。
なんだろう。
トロッコが走っていくのを見るのって、好きなんだよね。
誰のためでもなく自分がやっとの思いで走らせられたトロッコって、トロッコは自分のものではないかもしれないけれど自分だけが通せたトロッコは自分のものじゃん。


なんか。
ひどいなあって思った。
人の望むような物をその通りに道筋に通して橋渡しするって、難しいんだなあ。
ハンドルレバーをぐるぐる回すだけで素直に回転盤を回せるような人に私はなりたい。

2件のコメント

  • 近況と言うより、作品として投稿しても良いのでは?と思う文です!ラストの台詞までの流れ!深みが凄いです(^^ゞ
  • これはもしかしたら、小田原さんにも一部当てはまるところがあるかもしれないですね。

    私小説のような体をしていますが、内面のそれを寓話的に書き表しているだけの作品なので、これは日記とか近況なのかなって(最近、本当の近況報告の書き方を知って慌てましたが、これもトロッコの流れのようなもので自分がうまい具合に近況報告を書けなかったのです。正しい流れができなかった、でももう仕方ないですね^^)
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