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コンクリートワンルームの世界

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鍵付きワンフロア、縦横高さ合わせて面積27ヘーベー1Kの世界。

いやこれでも大きな方なのだ。でも、大きさの大きい小さいは問題ではない。
密度か?
わからない。違う。たぶん違う。
この世界は鼻の先もしびれる程度に寒い。

身を温められるのは、ワンカップの酒だ。
酒がこの凍てついた世界を拡張してくれる。
広くて狭いこの世界を、一口飲んだら100へーベー、二口飲んだら1000へーベー。

部屋の間取りが広がれば広がるほど、この世界の密度は下がっていく。
代わりにこの世界に充満していくのは、NULLという名のガスのような物。
NULLが世界に広がっていくと、戸棚や机、いやゴミ、ゴミというゴミ、ゴミという名のゴミの中のゴミが重量はそのままにどんどん膨張して大きくなっていく。
最後は風船みたいに大きくしまりなく広がっていくのだが、対比して自分の体はゴミや部屋の大きさに比べて小さくなっていくのだから、なんというか、ゴミだらけの部屋に小人の自分が差迷い込んでしまったように感じられてしまう。邪魔、というのはゴミが邪魔なのではなくて、ゴミの世界に迷い込んでしまった自分そのものが、この世界の秩序に反しているような気がして。

ゴミに対して謝りたくなってきてしまう。邪魔をしてすみませんと。

ただ、自分はそんなお遊戯をするためにこの部屋にやってきたわけではないのだ。
燃料をブーストしろ。この世界は無限のように感じられるかもしれないが、実はもうすぐ終わってしまう夢の世界なのだ。
自分が懐に忍び込ませている酒は、今から2年前に、とある流刑地の島で手に入れた品だ。この酒は本来そのような使い方をする物ではなかったはずだが、彼の流刑島では酒はこのように、自分の処遇を一度でも良いから忘れてしまいたいと望んだ当地の民が、寝食を犠牲にしながら作った酒だ。
私も同じように、まあ同じような使い方をして、この世界に迷い込んだわけだが。



この世界には鍵穴がある。
ゴミと掃き溜め、それぞれが茹であがった酒の蒸気でパンパンに膨れ上がっているのに、そこには鍵穴があって、鍵穴に正しい鍵を挿れて鍵を回すとゴミはシュウと萎んで小さな……えらく小さな星のような物になるのだ。
まだ鍵を差し込んでいないのでこれはただ私が期待しているだけの妄想だし、そしてそれは星のようなもの……星だと思いたい。星ではないかもしれない。それは星でもなんでもなく、肥大したゴミを鍵を使ってより純度の高いそれにした、ゴミの中のゴミなのかもしれない。


このゴミは大層面白い性質をしていて、然るべき量の酒を飲んでからこのゴミを見ると、まるでゴミがゴミではない別の何かに見えてしまうことがある。
ある時私はそれを星だと思って見てしまった。当然綺麗なもの、美しいものだとその時の私は思っていたが、改めて昼の光に照らしてよく見てみると、それはゴミであった。
しかもタチの悪いことに、純度の高いゴミであった。

このゴミをどうしようかと思っているが、未だに部屋の片隅から捨てられないでいる。
ゴミの大きさに比べて、なんだか自分がとてつもなく小さな人間に思えてしまって。


ゴミとガラクタでできたよくわからないこれらが、ゴミとガラクタでできたこれらの正体である。
作る前から、これはゴミとガラクタでできた物体であると感じてしまう自分の感性では、これらを皆に見せるのがとてつもなく申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまって。

本当は、鍵を掛けて閉じてしまう方がよっぽど良いはずなのに。
私はゴミを解き放つ鍵を刺して回している。



プレミアム鬼殺し原酒5に、八丈島鬼殺し5。

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