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メトロの世界

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昨日はどこまで書いたっけ。
ああそうだ。町の一人の男としばらく一緒に旅をしていて、彼と別れたところで最後か。

彼は自分の道を行くと言って別れた。
「僕」はこの先の道を行くと言ったが、彼はそれを聞かなかった。
「僕」の進むべき道と「彼」の進む道は違う。それは誰の目から見ても当たり前のようだったし、実際に「彼」と「僕」の道は違って見えた。

「彼」の道は、「僕」にとっては……まあ、深いことは言うまい。
ただ、「僕」の道の方が深すぎるんだ。
人喰いの変異獣たちが徘徊する凍てついたメトロの廃墟、ステーションとステーションの間に無数に存在する分かれ道、ステーションに閉じこもる人々。病と死に怯えて暮らす老人と若者。
そういえば、このまえ話したこどもは、青い空を見たことがないと言っていた。


「僕」が旅をする道はこちら側だ。
人が人である場所。人と人ではないものを分けるものを探して、「僕」はメトロを進んでいる。
この先は破滅しかないかもしれないけれど。
「僕」は人でいたいのかもしれない。

光に照らされると、本当の姿は見えなくなってしまう。「僕」がこのメトロの中で見つけた答えの一つだ。
歪んでいるし正しくないかもしれない。
「僕」は、地上を走り回るあの怪物どもに、誰よりも人間らしさを感じている。
卑怯で、臆病で、攻撃的で、すぐに噛みついてくる醜くて獰猛な変異獣どもに。

さようなら旅の人。
またどこかのステーションで会おう。お互い生きていれば。



私はぬかるみにはまって死んだらしい骸骨を、そっと地面に置いた。
さようなら、旅の人。

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