• に登録
  • SF
  • エッセイ・ノンフィクション

炭鉱の世界

1/23


前に進むと後に戻る。
朝は0本足、昼は一本足、夕方以降は二本足で夜は一本足。
舌は2枚で口は一つ。
体は一つなのに心は幾つも。

何十年もそのままなのに体は老いている。
これってなーんだ?



壊れたレコードみたいに何度も同じフレーズを繰り返す蓄音機が、もう20年以上前の当時は洒落ていたであろう音楽を何百回も流し続けている。
こんな環境から、新しいものが生まれると言うのだろうか。
私はべつに新しいものを生み出したいとは思っていない。
ただただ、この世界の底に何が眠っているのかを掘り下げたい。


多分何も無いのだろうなと思っていてもまだ掘り続けていると言うことは、心のどこかではまだ得体の知れない何かがあるのだろうと思っているのだろう。

タールとか。
黄鉄鉱、愚者の金とか。
まああっても石炭か。質の悪い何かか。

この世界の底は浅い。それでもツルハシはまだ壊れていないので、もうしばらく掘ってみるつもりだ。


掘り出したガラクタをどうしよう?
皮肉として、ゴミの山を作ってアートとして売り出そうか。

アートとは、つまるところ役に立たないゴミだ。
でもそのアートを作ってしまった張本人としては、その材料ひとつひとつにかけがえのない思い入れがある。
たとえそれがただの粗悪な鉛の石でも。
それでもだ。

それを宝物だと信じている限り、それは確かにアートなんだ。


そう自分に言い聞かせながら、少しずつ地面を掘ろう。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する