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演劇の舞台の話

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人類が月面で見つけた、未知の高度知的生命体によって作られた月面遺跡が暴走を始めた。

 長く動かなかった歯車が電子ノイズを連動させて、ゆっくりと起動。起動した自己防衛プログラムがさらなる異常行動シーケンスを発火させて、縦長のドーム状の基地はさながら太陽砲と呼ぶにふさわしい形状を月面上に露わにした。

稼働する基地防衛機構によって長らく堆積していた月面上の土砂が次々に砕かれ、月の軌道もゆっくりと動き出す。
太陽砲が狙いを定めているのは、おそらく地球そのもののようであった。

人類はこの未知の月面遺跡で手に入れた高度なテクノロジーを利用した新しい兵器を、たまたま、ごく少数だけ手に入れていた。
未完成ながらも既知の兵器性能を圧倒するこれら未完成機を使って、人類は、この太陽砲起動を阻止、破壊すべく月面遺跡へ大規模攻勢と少数先鋭の新兵器を月面へ投入するのだった。




という物語がある。
当然、物語の進行を務めるのは私。
月面遺跡最深部で主人公たちを待ち構えるのも、私。
月面遺跡上空の軌道ステーションで主人公たちが補給を受けようとしている時に暴走した無人機が突入してくる、その機体を操っているのも私。

存在しないはずの軍の秘密兵器が月面遺跡のハッキング攻撃を受けて主人公たちに襲い掛かるその算段をとるのも、私。
主人公たちを裏切ったかつての仲間が、地球浄化と太陽砲の起動を唱えて立ちはだかるよう仕向けるのも、私。

入り組んだ迷路と遺跡防衛機構を駆使して主人公を苦しめるのも私。
エネルギーギリギリのところで遺跡最深部の一歩手前に辿り着いた主人公たちに、想定外の敵を彼方から沸かせてぶつけるのも私。

遺跡の出力はかつての20パーセント以下しかなく、遺跡の自走式最終防衛要塞のバリアにリミッターがあるようにしたのも、私。
自走要塞がわざと主人公に倒されるようにしたのも私。

最後の戦いで主人公は遺跡最深部に到達できなくなった、そのように主人公のエネルギーをギリギリに調整したのも私。

主人公はわずかに残ったエネルギーをすべて攻撃エネルギーに変えて決死の最終攻撃をするよう仕向けたのも私。

エネルギーが尽きた主人公が、あとは死を待つだけの中で太陽砲が起動するよう仕向けたのも私。


客席で、これらの演劇を観ているのはあなた。

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