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存在しないの国

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迷宮をひたすら迷うことに、最近はなんだかその行為自体に満足するようになってきていた気がしたが、ここへ来て、やっと「自分がどういう奴なのか」という特徴を掴んできた。

自分はけっきょく他人に依存しないと自分のやりたいことにも満足した目標を見出すこともできず、結局は「存在すらしないもの」を勢いだけでなんとか「存在している」ことにしようと躍起になっていた。
存在しないものが、存在していないことを認知する前に存在していることにしてしまうには勢いが必要だ。それから時間。「存在していない」が動き出さないよう大人しくさせるための麻酔薬。
これがすごく大変だった。
「存在しない」は、存在していないことすら存在していないので、このバケモノとも言える空虚をなんとかして飼い慣らす方法は無いものかと。
いや、これはさっき思い至ったものだ。自分はさっきまで「存在しない」が存在していることを知りもしなかった。

「存在しない」は私の中の地下ダンジョンで最大級の化け物だ。
表層階をうろちょろしている化け物共とは格がちがう。「存在しない」は、半ば伝説状にしか存在しない奴だと思っていた。
物語を作る時、あるいは私が世界を作る時、この「存在しない」は、どう表現すればいいだろう、怠惰、劣等感、喪失、拒絶、諦観、それらが長い時を経てとんでもなく大きく育てていて、世界全体を凍結させているような。
寒くて、薄暗くて、でも真っ暗ではなくて、方向さえも曖昧で。歩く先々に昔の自分の足跡があるような気がして。

そういう世界のどこかにダンジョンがあって、ダンジョンの最奥には「存在しない」が棲みついている。

陰気な百足と腐肉の王とやらはきっとこの「存在しない」の兄弟か何かなんだと思う。
存在はしない。
それって、何なんだろう?

屠りたい。
せめて魔法で封印したい。
魔法の力が欲しい。

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