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鏡の国

11/13


今日はとある怪異収容房に収容している『怪異』餌をやりに来た。

ここの収容房は実は他の怪異収容団体と共同で運用していて、メンバーはたくさんいるが実はみんな別の怪異管理団体に属している。
待機場所も違うし、施設が広すぎるからか廊下で他のメンバーとすれ違うこともほとんどない。

当然この施設の多くは地下の収容所だ。
いや、私の知っている怪異が収容されているのが地下にいることが多いってだけで、理屈で考えれば地上界で収容すべき怪異もいるだろうし、できるだけ太陽に近い場所で収容すべき怪異もいるだろうとは思う。

そして一番ややこしいのが、この施設、収容している怪異の収容房に名前が一切書いてない。

どの部屋にどんな怪異がいるのかは入って見て確認しないといけない。
だいたいの怪異は無害なことが多いが、体感的には、出会ってすぐ効果が出てくる怪異よりも効果が遅れて出てくる遅効性の怪異が結構いると思う。

ここの怪異は他の組織と共同で管理していると言ったけれども、実はその共同管理も曖昧で、共同というより共用といった方が実態には近かった。

つまり、どの怪異を誰が管理すべきか誰もわかっていないのだ。
もう一つとんでもないのが規則。

他人と口をきいてはいけない。
職務上必要な最低限の会話は許されているけど、例えば挨拶することも許されていない。

このルールが何のためにあるのか分からないけど、おそらくどこかに収容されている何らかの怪異に関係した対策法なんだと思う。


メンバー同士の多くの意思伝達方法は紙とペンで、しかも職務上の立場からギスギスしている。
聞こえてくるのはどこかの部屋でヒソヒソ話をしているような声だけ。

自分は怪異の管理者なのか怪異そのものになってしまったのか分からなくなってくる。

そう。
この前は不思議な怪異に遭遇した。現実と妄想が逆転してしまう怪異だ。
見た目はただの壁掛け鏡。
映し出されているのはいつもの自分。
取扱書には「何も考えるな。もし何らかの妄想を頭の中に描いた状態でこの鏡と接した場合は、鏡に写っていない範疇で現実世界が改変されてしまう」と書いてあった。


つまり私は、私が妄想しているろくでもない世界に来てしまったのだ。
ここから出してくれ。

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