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魔法使いが魔法をかけられてぜんまいを無くしてしまった結果……のオルゴールの世界

10/27


今日は(も)何も書かない。
魔法をかけられると全ての世界が凍りついて動かなくなってしまう。
例えばほら、自分を着飾り空っぽの中身を隠すために仕立て上げた豪華なスーツを着たあの仮面の大男も。

自分には家臣がいる、自分には強大な力がある。自分には好きに動かせる富と権力があり、多くの兵士たちに護られて玉座に一人座っている不敵な笑みのあの大男は、やはりと言うか、機械仕掛けで手作りの、出来損ないの自動人形で、人形の作り手が一体誰だったのか、何のためにこんな人形を作ったのか、この出来損ないの宮殿も、豪華に飾られた空っぽの金庫も、その金庫を守るハリボテの兵士たちも。

なぜこんな物を作ろうとしたのか分からないが、既にあるから、既にあるのだ。
フリーズしたこの世界では何も動かない。
今にも動き出しそうな姿形をしているのに、仮面の男も兵士たちも、ぴたりと動きを止めたまま。

来賓をもてなすための軍楽隊がまさに音を鳴らしていたであろう姿もそのまま凍りつき、自分も仮面の大男の玉座の前で立ち往生している。


ああ、書いていて思い出した。


これは金縛りのようなものだ。


世界が金縛りにあい、私ともどもこの世界は動けなくなっている。
仮面の大男は足を組んで私にねぎらいの言葉でもかけるつもりなのか。まさに、そんな表情、そのような姿格好で固まっている。


私は一時期、これをテトリスだとかマインクラフトと言い表したがまんざら嘘ではないようだ。

動と静、静と動が一つの世界で完全に分離しているのだ。今わたしが見ている世界は、静。次の瞬間にまた別の静の世界に切り替わり、それらが連続的に進み出す。

では私は、今どこの世界にいるのだろう。
静と静の間の世界。
何もないはずの、静の世界と静の世界のちょうど間にあるVoidの隙間。

静の世界にはガラクタの王が謁見に応えて私をねぎらい、また次の世界では王は立ち上がって階段を降りてくる。
豪華そうな軍楽隊のワルツ調の音が、この世界を豪華そうに演出する。演出するだけであって、その質はたかが知れている。

私はそれらを知っている。だがVoidの隙間にはまっている時、私は次の世界に移れないのだ。

永遠に凍りついた紛いものの世界。
本当は生き物のように振る舞うはずの、仮面をかぶったガラクタの王。
だが彼は動かない。
世界のぜんまいが動かない。
この世界を作ったのは私だ。
魔法が私から、ぜんまい仕掛けの歯車のピースを外させたのだ。

だからこの世界は動かない。
動かしたくても、動かせないのだ。


だから酒でも飲むのだ。

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