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作業開始の鐘がなる世界

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20年前だ。
まだ世界がポリゴンでできていた時代のことだ。
自分たちはその頃まだ14歳程度で、世界を分かった気でいてそこらへんの小さな世界の中を我が物顔で闊歩していた。

ポリゴンと言われてもよく分からないだろう。
ポリゴンとは、多面体を複数合わせて立体を再現しようとしていたエセリアル世界の立方体である。
ちょっとよく分からない。とにかく、世界は紛い物だらけで、正確な世界の姿などと言うものは存在していなかった。
どこからどう見てもヒトは化け物に見えるし、化け物はシュールな多面体物体にしか見えなかった。

そんな中で自分たちはイデア、真実の「それ」と言うものを探していた。
そんなものがポリゴンだらけの世界にあるはずがないし、仮にあったとしてもそれは「イデア」という名前をつけられたチョコレートケーキの上の一本の蝋燭のようなものだ。
いや探してはいたのだが、別に本人はイデアを探しているつもりはなかったのかもしれない。

イデアという名前の紛い物の物体を探しているうちに、当然その頃の自分はいつの間にか迷子になっていたし、どこでどういう道を進めばよかったのかは分からないが、気がつけばとんでもなくでかい迷路の中で迷い続けている。

今自分はイデアを探しているか?
探しているつもりはないし、探しても何になるんだと思って半ばバカにしているが、実は今立っているこの道は、きっとイデアに近い方なのだろうなとは何となく思っている。

では20年前の自分は、いや、10年前、5年前の自分は何を思ってこんな道を選んでいたのだろうか。
あの紛い物のポリゴン世界を作った人々はとうの昔に歳をとり、いつしか彼ら彼女らがあの世界を作っていた年齢を私は超えた。
それでもあの頃のあの時の私が、どんなふうに迷路を歩いてどのようにしていたのかがまるで……まるで自動プレイのビデオゲームのように目の前で再現されている。

こんなのを見て何になるんだ。
今さらあの時の自分を思い出したって!

思い出して、いったい何になるんだ。
ああ、あの頃は自由でよかったなあ。
世界には天井と地上があって、自分たちはこの世界の向こう側に世界が続いていると知っていて、紛い物の世界を紛い物だと思って嘲笑っていた。

ところがどうだ。
天井は天井のまま。地上は地上のまま。
自分がポリゴンだと思っていた紛い物は、そっくりそのまま、この世界だったじゃないか。



そんなことを思いながら、今日もぽつぽつと世界を書いていきましょうかね。
この偽物の世界に祝福を。
さようなら現実。
こんにちわ、、、何かのそれ。

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