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竜の涙の流れる町

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大きな町にやってきた。
人口が十人以上いて、礼拝所とビール工房があったらそこは大きな町だ。

ここでは赤いビールと大豆と岩塩の生産が盛んだ。
町には現地の言葉で「竜の涙」と呼ばれる赤色の川が流れている。
自分の知識では見たところ、この地方は元々土の塩分濃度が高くて、あとたぶん草の成分が染み出しているから川の水がこんな色をしているんだとおもう。
この地方でもビール製造が盛んで、上等な地下水がここらでもよく湧いているらしい。

今日はバザールの日では無いので人では少ないようだったが、自分が知ってる辺境の片田舎に比べれば充分に賑やかだ。
商人が三つ以上棚を広げている? 今日はお祭りかな?

そういう冗談は止めておいて、この岩塩とビールと大豆生産の村……町は、今日の私の旅の通過点の一つだった。
ここで宿を取るつもりはない。けど次の町も近いので、多少散策をしてみようと思った。


赤い川の向こう側にちょうど街道が通っており、町と町を繋ぐ乗合馬車の待ち合い場があって、橋を一本渡るとこの町に入れる。
この町は渓谷に挟まれており、切り立った崖と川のちょうど真ん中の小さな平場に町か作られているといった塩梅だ。
崖の一端は岩塩の採掘場で、ここで取れる赤塩は「ブラッディクリスタル」……的な名前の現地語で呼ばれて、とにかく高値で売られている。
ちなみに私は舌に肥えている自信があるが、確かにうまいのだ。人工塩とは違うし、近海の塩とも違う。一番分かりやすい違いは当然真っ赤な色。赤い塩の結晶を細かく砕いて茹でた大豆にかけるだけで、豆は超高級な茹で豆に変身する。

あとは切り立った崖を切り開いて豆の生産がされている。
この地方では、豆で酒を作っている。
豆とこの地の湧水を使って、あれは真っ赤な蒸留酒だな。実はさっきほんの少しだけ酒造工房の人に飲ませてもらったのだが、あまりにも濃くてむせてしまった。

フレーバーを混ぜたりこの地の天然炭酸水で割ったものもあった。
なぜか全くわからないのだが、この赤い酒はフルーツの香りがしたのだ。
フルーツは一切使っていないのに、たしかにフルーツの香りがする。炭酸水で割るとその香りはもっとずっと強くなった。

あんまり飲みすぎると酔っ払ってこの村……町に泊まり込みになってしまうのでそれ以上の試し酒はお断りしたのだが、先程の商人の前を通った時にまた声をかけられて試し酒をしてみないかと言われた。

どうも遠くの町の酒らしく、丸い瓶に詰められた格式高そう、と思った、酒だったので、まあ一口だけということで飲ませてもらった。



正直、むせた。
ゴムのにおいが口中に広がった。

というわけで私は今、乗合馬車を待っている。

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