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今日は自分の中に巣食っている、悪い巨虫に酒を飲ませてやることにした。
奴はいつもの重金属酸性雨の下で、ボロ切れを被ってそこにいた。
この世界は私の世界だ。
私が雨が降っていると思えば、この世界には雨が降る。
ここに人はいないと思えば、ここに人はいない。
深層部。
この世界の一番奥深くへと続く奈落の階段の一歩手前。
奴はそこで、いつも誰かを待っていた。
待っているのか。それともただそこに立っているだけなのか。
それとも地底へ続く、私も足を踏み入れたことのない地下道から聞こえて来るあらゆる声を聞き、それを代弁するためにここにいるのか。
奴を黙らせること。
それが目下の、私の役割だった。
殺すこともできぬ。
消すこともできぬ。
まるで長年連れ添ってきた病巣のように、奴と私は長い付き合いをしてきた。
好きで奴と共に生きてきたわけではない。
このオオムカデは、ことあるたびに私の手足を噛みちぎろうとしてくる。
本体はいつも奈落の地下道に隠したまま。
上半身だけをするすると出してきて、不用意に近くを横切った私のからくり人形を捕らえて喰うのだ。
おまえの人形はこの程度なのか。
この空虚な人形が血肉のついた何者かになるとでも思っているのか。
そう言いながら奴は、笑顔の表情で固まったまま動かないからくり人形を大顎で粉砕していき、咀嚼して、自分自身の手足にすり替えてしまう。
奴の持っている百以上の足はすべて私の作ったからくり人形達だったものの残骸だ。
私は奴に、酒を飲ませて黙らせることにした。
そうすることで、奴が食いかけていた人形たちが、奴の大顎から抜け出て自由になる。
私は彼ら人形と、噛み砕かれた人形のかけらを拾い集めて大顎の虫から立ち去る。
でも、どうせ私は逃げられないのだ。
それでも奴が目を覚ますそれまでは。
私はきっと自由になれる。