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料理の世界

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今日は自分の中の異世界の中に、別の異世界を発見した。
自分は決して料理が得意な方ではなかったけれど、自分がよく使う食材でできる料理くらいは一通りできるものだと思い込んでいた。
今日はたまたま。本当にたまたま、夜中にやっている知らない人の店の中に迷い込んでしまったのだけどそこでは料理油や卵、香味料、味塩、たぶんだけど何かのタレのようなものをふんだんに使って、作る人にとって最高の味になる料理を作る世界だった。

油と一言で言っても、使う量は尋常じゃない。
鉄をふんだんに使った鍋に尋常じゃない量の油を敷いて、溶いた卵を流し込むように入れてすぐ別の香味料と混ぜる。
いやその前にこの世界では普通に見かけるキノコの類だ。下料理も済ませてあるものを冷蔵庫から出して置いてある。
普段の自分なら、煮るか焼くか湯に通すか揚げる程度だけど、この世界では、味付け? 味付けどころか、一つの料理とでも呼べそうな勢いですでに調理してある。

その方法は私も彼らに聞いていないし、たぶん聞いても分からないだろう。
そもそもこの世界では、私はカウンターのこちら側にいるだけで彼らはその向こう側にいた。

彼らが調理をすれば当然湯気も漂う。脂の焼ける匂いだってする。けれど、こちらとあちらの間には、長く、厚い壁があるようだった。

出される料理は存在しない。ただ私は、彼らを見ることしかできなかった。
彼らの中には、方法論とか、べき論なんてものはなくただ最善のやり方で料理を作っているようだった。

材料だって、この世界ではありきたりのもの。
鍋だってこの世界に無いわけじゃない。
作り手は人間だ。火も存在する。
ただ、何かが無い気がする。
こちらにはなくて、あちらにはあるもの。

沸騰する油?
大火力のコンロ?
そんな些細なものだろうか。
楽しそうに料理している。それはあるかもしれない。
ああ、あちらの世界の話ね。
こちらの世界にそんなものが、新鮮な状態でまだどこかに残っていただろうか。

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