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かつてこの底無しの沼は、あたり一面に湿地性の低木が生えており、石造の巨人像がなくても根を渡って対岸まで自由に行き来できたんだそうだ。
だがこのあたり一帯を悪い魔法使いが支配するようになると、彼が出す邪悪な瘴気が木の根を全部ダメにしてしまい、腐った根が泥に沈んで湿地帯になってしまったらしい。
もともとこの湿地帯の森にはエルフがいたが、木々がなくなるとエルフはいなくなり、代わりに湖底で眠っていた石人族たちが姿を表す事になった。
底無しの沼の湖畔では、どの石人族を使って対岸まで渡るかを商売にする商人が集まっていた。
石人族の大きさは出てきた沼の深さで決まっており、沼の浅瀬で見つかった石人族は数は多いが背が低く、深い沼は渡りきれない。
大きな石人族は深みにはまってもある程度動けるが、数に限りがあっていつもは使えない。
おまけに石人族は最近出てきた魔物というだけあって言葉が通じず、石人使いを自称する卑しい人足もよく石人の怒りに触れて沼に引き摺り込まれるのだそうだ。
乗客ならなおさら。
この沼地を渡ることを諦めて、湖畔を迂回していくものも多いが、沼がどれほどの早さで広がっているのか、昨日の街道はまだ使えるのかなどの情報が錯綜していて、どの話もとてもじゃないが信用できない。
さらに運の悪い事に、この底無し沼にはまだ未発見の、大きさが規格外の石人族がまだどこかで眠っており、彼につまずいて石人族ごとこの底無し沼に放り出される事件が続発していた。
渡るか渡るまいか。沼のインプどもが甲高い声で自分たちを笑い、何を考えているかわからない石人が無表情な眼差しで自分たちを見下ろす。
対岸から、この湖畔の村で一番でかい石人族が今日の晩あたりに帰ってくる予定らしい。
というわけで、今日の今日まで私はこの不気味で陰気な底無し湖畔の村に足止めを食らっていたわけだが。