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山ほど積まれた生肉の塊が、机の上に置いてある。
心なし寒い。
湿気を含んでいて室温は冷えている。ただ冷蔵庫のような冷たさではない。地面の底からくる冷気のようなものだ。肌がゾクゾクするくらいの寒さ。
肉に虫は湧いていない。ただ、べっとりした液が肉から染み出して、下の皿からすでに溢れている。
この世界は暗い。
その代わり音はよく響く。
この世界には調理人がいた。
彼はこの世界で、調理をしていた。
材料はこの大量の切り落とし肉を一つの鍋に入れて、水、塩胡椒、出汁、具材、香りたつハーブ類、ひとつまみの砂糖を入れてグツグツ煮る。
油で揚げることもある。その時は肉をいくつかまとめて鉄の串に刺して、やっぱり鍋の中に並々と入れた油の中に入れる。
肉をいちど挽いて肉玉を作ることもある。ほどよく油脂を混ぜ込んで一つ一つ手でこねていく。
彼は肉と材料たちをどう組み合わせて、そのあとどうやって調理すればいいのか。
全部をわかっていた。
これはこのようにするもの、あれはあのようにするもの、全部決まっていた。肉を彼の思う最高の組み合わせの料理にすると、彼はそれを料理皿に乗せて貨物用のエレベータ台に載せて、チャイムを鳴らした。
料理は上に上がっていく。
彼の仕事はこれで終わり。
彼はこのあと料理がどうなるのか、誰が食べるのか知らないし興味もなかった。ただ淡々と、そこにある肉を並べて、組み合わせを考え、調理して出す。
彼にとってそれ以外のことは考えることもなかった。
当然、この肉がどこから来ている何の肉なのかも。
彼は、それを考えたくなかった。