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鏡を見つめるのは楽しい。
鏡はいつでも、自分の夢見る理想の物語の夢を見せてくれる。
それが物語だと気がついたのはいつだったか。
鏡に映る断片的な情報や風景に気がついて、それに対して自分なりの解釈や考えを当てはめると、鏡に映る別世界はまるで、最初からあったシナリオと物語をその通りに演じてくれているように見えた。
鏡の世界の中に映る自分自身は、まるで完璧で、まるで現実の自分とはまったく違う、勇気があって、知恵があって、名誉があり、欲望に溺れず周りに称賛され、勇敢だった。
映画のフィルムのようだと思った。
けどその鏡は決して普通の鏡ではなくて、そもそも鏡ですらなくて。自分の欲望をただ自分に都合よく映してみせる、魔法のような夢であった。
自分は自分に、都合の良い夢だけが見れる魔法をかけたのだと思った。
ありもしない架空に自分を当てはめ、足りないところは想像で補い、裸の王様を一人で演じていた。
無力すぎる。自分はこのまま何もせず、朽ちていくのか。そう思ってこの前までは歯を食いしばれたが。
夢は覚めてしまったのだろうか。
誰もいないこの悪夢は、果たして本当に夢なのだろうか。