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腐肉

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後頭部が、なにか鈍器で殴られたように痛い。
手と足先は刺すように冷たく、目頭の上の部分だけは異様に熱っぽい。
やっとの思いで目を開けると、半開きのまぶたが妙に重く感じた。
視界が霞んでいる。朦朧としている、と妙に冷静な自分が、自分の頭の中でつぶやいた。だからと言ってこの世界も体もどうにもならない。

気がつくと私は、暗い通路の片隅に座り込んでいた。
硬い石造りの壁を背もたれの代わりにしている。顎の下は妙に軽くて、しまらない。風がひゅおひゅおと喉元あたりを通り過ぎていく。
舌が乾き切っている。
ぬるくて湿っているはずのあの舌が、今ではまるで冷めて硬くなった干物のようだ。

遠くで何度も鐘の音がする。
教会の鐘の音だと、無意識に思った。ではここは墓地だ。
自分は通路に座り込んでいるのではなく、墓地の参道脇に倒れ込んでいたんだ。

霞む目で周りを見ることは諦めた。周りはきっと真っ暗だろうし、そのうえ目が見えていないのなら目で周りを見ても意味がない。
代わりに、少しでも動ける指と腕を使って手元に何があるか、掴んでみた。
ぬるりとした。


泥か、砂か、それとも腐った藁か。
力が思うように入らないのでそれ以上はわからない。

生きるのか生きたくないのか。
このままでは無様に死ぬ。
絶対に死ぬ。
死んでたまるか。墓地の出口はすぐ目の前にある。
教会の鐘が力なく鳴る。

何度目の鐘つきの音なのかわからない。
自分はいったい何者なのだろう。
どうして、ここにいるのだろう。
一人で死ぬのは、嫌だ。
そう思うと、失ったはずの目から涙が溢れる気がした。
指先が砂利を掴む。固そうな草の葉も掴む。私は、その草の葉を指に絡ませ抜けないように握りしめた。
掴んだ指で、地面を前へと這った。

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