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地下シェルターの世界

12/30


6年前のあの日から、ろくに太陽は登っていない。
黒くて暑い雲がこの世界を覆い出したと思ったら、嵐がこの世界を覆った。
人々は青い空とまだ生きている世界を求めてこの地を去った。
私は、この地に残ることにした。
去り際に友人や家族たちが自分を見ている時の、悲しそうな目が忘れられない。

黒雲が薄くなることはあった。
薄く太陽の光が差すくらいはあった。
だが嵐はいっこうに弱まる気配を見せなかった。

食料の自給自足には成功した。
最悪の状況は脱したが、放射能を帯びる嵐が街一帯を覆うようになって、私はこの地下シェルターから出られなくなった。
いや、出られないのではないかもしれないが、出ることができないのかもしれない。

シェルターから外へ通じる鉄製の厚い扉は厳重に固く閉ざし、内側からも外からも開けられないようにした。
シェルターから外を伺えるよう潜望鏡を作ってみたが、地表にはモンスターとしか思えない異形の化け物たちが歩き回っている。

幸い地下シェルターには、水も食料もあった。最近は暖房の調子が悪くて、思うようにシェルターの温度が上がらない。じわりじわりと外気がシェルター内の温度を奪っているのが肌でも感じられた。


外へ出たい。
私は気が狂ってしまったのかもしれない。
あの放射能の吹き荒れる外の世界に出たら、おそらく5分と体が持たずに死んでしまうはずだ。仮に放射能汚染に耐えられる装備を持てたとしても、あの化け物たちに殺されないで地表を生きるのは私には無理だ。

だが、地下シェルターにこもっていると、どうしても地上に出たいという衝動が込み上げてくる。
あの鋼鉄製のドアを破りたい。
破って外に飛び出したい。
そう思って、思うだけで、私は潜望鏡を覗き込む。
外は相変わらず嵐と、化け物がいるだけだ。

この日記を書くのも億劫だ。この日記が、私にとっても唯一の友達のようなものなのだ。
地下シェルターの世界では、孤独しか友にはできない。
明日は、まだ行ったことのない新しい地下道を探索してみるつもりだ。

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