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おもちゃの箱のしおれた夢

10/24

メリーゴーラウンドがぐるぐる回ると、回転に合わせて空気がゆっくりと集められていく。
朽ちた回廊の隅には使い古された子供のおもちゃが落ちており、スイッチを入れると空気を吸って丸くなっていった。

圧縮空気が次々に送り込まれていくとバルーン人形は昔の姿そのままにどんどん膨らんでいって、ホースを外した途端に爆発をした。


その悪夢は20年前の姿そのもので、あのときはよくこの回廊を何度も何度も繰り返し周回していた。
今でも同じことができるが、当時と違うのは自分自身の方だ。
そして、風船人形の歌う歌はかつては無限の声量だったが、それは萎れ、かつてほどの音量とおどろおどろしさを演出することはできていない。

長い息の歌声は往年の時そのままのようにも聞こえるしゆっくりと回る回廊のメリーゴーラウンドの軋み音は、もしかしたらあの時よりももっとひどくなっているかもしれない。


子供向けの、おもちゃの国のお化け屋敷は、今ではもう随分と小さくなりすぎている。
それでも彼女は懸命に、生きの続く限り歌を歌い続ける。
膨らんだ風船はいつかしおれるように。
あの日あのときのあの目、顔、憎たらしい口元の笑みの隅にはシワとシミができている。
つるつるで取り付くこともできなかった肌はガサガサで、跳ねるのもあのときのように美しくない。

おもちゃの国のナイトメアは古くなりすぎた。
それでも彼女は懸命に歌い続ける。
己の空気がなくなるまでに。
萎んですかすかになって、空が飛べなくなるまでずっと。
永遠の歌声は、彼女は持っていない。
それでも彼女は歌い続ける。
たった一人で悪夢のソロボーカルを。

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