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朽木の王は、偽りの希望こそが人々を苦しめる罪だと言った。
罪とは何かと問えば、朽木の王は「生」と答えた。
生に執着し、有りもしないものに縋ろうとすることが罪だと説いた。
同時に、朽木の王は、答えは常にうつろうものだとも説いた。人にもなれず獣にもなりきれないお前自身が、好んでこの地底に降りてきて自分に教えを乞うときは、決まって何かがあったときだとも。
お前が私になにを望んでいるのか。
自分を苦しめ、痛めつけ、苦痛のうちに現実の痛覚を歪めて生血を啜られることに安堵し己を慰めたいのか。
自罰に身を委ねて、至らない自分に安心したいのか。
己の苦しみを、己の歪んだ欲望を岩に打ちつけそれで何かを成したつもりになりたいのか。
岩に爪で呪詛を刻み込めば満足か。
毒草を傷口に擦り込めばいいのか。
砕いた石英を喉に詰め込めば気が楽になるのか。
朽木の王は触手をつかって、ひたひたと頬に触れてくる。
こうすることで、王は触れる者の心の機微を掴んだ。
大顎を左右に広げ、口髭を左右にびろびろとゆらし小さな、人の腕ほどもある舌を覗かせ、小顎で噛み付いてこようとする。
「腕を差し出せば楽にしてやる。その足も出せばいい。だるまになり、地面に臥して枯れ草に絡まり、冬が来るまでそこにいれば、おまえは安眠の間に楽に死ぬことができる。お前が欲しているのは死か、憐れみか、それとも心の底に抱いてまだ消すことのできない、呪いの灯火か。どちらにしろ、今のままのおまえに救いの道はない」
オオムカデはギチギチと関節を鳴らしながら、その場で方向を変えて暗闇に戻っていった。
そして目の前から消えた。
残っていたのは、地面に根を張る一本の大きな古代樹だった。