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いつかではない日。
どこでもないここ。
あるはずのない日常、聞こえない喧騒、町の人々、生活のための営み
鍛冶屋は蹄鉄を打ち、主婦は魚を買い求め、農夫は畑仕事へ向かうために鋤を肩にかけて道を歩く。
アヒルの列が道を行き、誰かがアヒル飼いに隠れてアヒルにちょっかいを出す。
野良犬がいる。
子供らがいる。
建物がある。道がある。空と雲がある。遠くに森と開拓された畑がある。
この世界には人がいる。人々はこの世界の中で、生きている。
彼らには日常がある。当然出会いがある。何かのトラブルがある。皆が家々の戸口から各々顔を出して何か揉め事を言い合う。
それを解決するために村長が出てくる。
水場の水の配分で揉めているという。
水は皆のものだから、水は全員に平等に割り振られるべきだという。
麦の収穫がある。水車を動かす必要がある。壊れた風車を治す必要がある。
この村に蓄えられた金貨を使って石材を買わなきゃいけないことになる。
行商人がロバを引いてやってくる。
隣町の噂を行商人が教えてくれる。
隣村では領主が戦争のための徴兵を始めたらしい。
戦争に行けば二度と帰ってこれないらしい。
領主の騎士が国王の勅令を持って駆けてくる。
村の若者は兜を着せられ、槍を持たされ戦争に行く。
若い娘たちは泣いて見送る。
森の向こうで煙が上がる。
国王軍が敵と戦っている。
村人たちは異形の戦士たちと戦わせられる。
即成の槍部隊と領主がそろえた騎馬隊が突撃する。
ドラゴンが雄叫びをあげる。
小鬼が飛びかかる。
森の一族も立ち上がる。
人の王と森の女王の間で和睦が結ばれる。
人と魔族、森の民、光と闇の戦いが始まる。
大陸中に邪悪な雲が広がっていく。
勇者が現れる。
いつでもないとき
ここではないどこか
あることとないことが同時に起こり得る紙の中の世界。
そのような世界がこの世界のどこかに、あったりなかったり。