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絵の中の世界の私

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「私」が生まれたのは、いつのことだろう。
それははるか昔のようにも思えるし、つい最近のことだったようにも思えてしまう。

昨日より前の記憶という記憶が、すべて灰色と白の絵具で塗りたくられた白紙の上のように、ただ、あったという記憶が薄くぼんやりと描かれているような。
奥行きはなく、幅はあるがそこまで多くはない。何枚ものA1画用紙を大量に横に並べていって、そこに鉛筆画を描き続けるような。
日常を、毎日まいにち画用紙に書き込んでいって、それらの単色で飾り気のない炭の絵はそよ風にさえ吹かれればいつでもどこにでも飛んでいってしまう。

私の絵の世界は、何度も何度も重ねて描かれた薄い墨色の中にある。
私はその外側で生まれていた。
気がついたら、私は自分を絵の中の住人にとどめていた。

どこへでも続いていく道が描かれれば、私はどこまでも自由に歩いていけた。
この墨色の、白と黒の濃淡だけで描かれたこの小さな世界が、私だけの王国だった。

私は自分の世界に、自分以外に誰もいないことに気がついた。
だからこの世界に、別の誰かを連れてくればいいと思った。

自分以外の誰かを探すために、私は絵の中を旅してまわった。
道はどこまでも続く。
その道には際限がない。

この道はどこまでも続く。
そう思って、A1の世界を歩き回った。

そうして見つけたのが、この地図。
この世界の終わり。
私は、絵の中に閉じこもっていたんだと。

そう思った。
この世界は単色だった。
私にとっては、それがこの世界の全てだと思っていたが。
これが悲しさなんだと、最近になってやっと気がついた。

誰かに届けたいものはある。
この声を誰かに聞いてもらいたいと思う。
でも私には、この声を誰かにうまく伝えることがどうしてもできない。
声が、出ないんだ。
この世界には声がない。

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