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情熱の枯れた泉


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もともと水が多かったわけではない。
たまたま10年以上も前にこの地に雨が降り、たまたま湖ができて、草木が生い茂りオアシスとなり、それが生き物を呼び込み人を呼び、小さな建物が2、3軒ほど建ったことがある。

よくある砂漠の気まぐれ雨が作り出した一夜のオアシス。
それがたまたまその地の地図に、オアシスがあるという勘違いを起こさせてしまった。
オアシスがあるということは、その地に湧き水があるということ。
渾々と湧き出る清水は生き物の喉を潤し、人々に安らぎを与え、その地に生きる糧と希望と未来を授ける。
干上がらなければ、だ。
雨は時たま降ったがあの10年前の時のような大雨はあれから降らず、小雨が時たま降る程度。
オアシスは干上がり、今では砂地をしっとりと濡らす程度の水しか残っていない。
あるいは、かつてそこに水があったという砂上の地図の記録と人々の思い出、憶測、勝手な思い込みの中には、かつてこの地にあった緑の生い茂るオアシスが存在した。

朝に太陽が登れば陽炎ができて、空の彼方に広大な草原を広げる。
ここにはない。
ただ掘るしかない。
駄馬が一頭、このオアシスだった泥地に残り鼻つらを砂に埋めて掘り返している。
ここから動くことも、歩いて移動することも他の水場を探すこともできない、耳も聞こえず、目も見えず、鼻も潰れた走れない駄馬が一頭だけだ。

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