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森の中で夕食をとっていると、赤色に染まりつつある空の向こうに、クジラの群れが飛んでいるのを見つけた。
群れの中には、子ども、その親らしい大きなクジラ、たくさんの親戚クジラがいて、それぞれが一番泳ぐのが遅い子どもクジラに合わせてゆったり尾を動かしながら、空を泳いでいた。
群れのクジラたちは遠くを泳いでいたのでその姿をはっきり見ることはできなかったけれど、鳴き声は森の木々の間でこだまし木々の小枝の揺れる音、ぶつかる音、割れる音、風が葉を揺らす音に紛れながら、いつまでもよく響いた。
子クジラが鳴く甘えるような声に、母クジラが低くゆっくりと応え、親戚クジラたちが子クジラを応援しているような雰囲気だった。
音はそのように聞こえた。それぞれがなにかをクジラの歌で歌えばそれに誰かが合わせて歌う。
歌と歌が重なり合い、クジラ独特のビートか何かに合わせてゆっくりと、重低音と高音の間で共鳴し合う。
そのずっと後ろから、大きな一匹の空飛ぶクジラがまるで先を行くクジラの群れを追いかけているような格好で、ややゆったりと、優雅というか、まるで疲れたときの緩慢な動きに似ている感じで空を泳いでいた。
大きなはぐれクジラが歌っても、群れのクジラたちは応えない。
低くも高くもない、独特な中音域の、心に響く歌声だ。
先を行くクジラたちはみんながみんな楽しそうに歌う。
けど、その一匹のクジラが歌を歌っても、誰も歌ってくれない。
オレにはクジラの歌声が聞こえるけれど、あのクジラたちには、この声が聞こえないのだろうか。
風の吹く森の中で、オレは木々の枝を打つ音や誰かが小枝を踏み折る音を聞きながら。
オレは、空飛ぶクジラを考えている。