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脳だけが踊る世界

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小さなバスタブに体を浸けて、何もない小さな浴室で目を閉じる。
白い壁を通り越し、簡素なユニットバスも、自分のうちに閉じ込めて。
バスタブというコクピットに収まって、意識だけが世界に飛び出していく。
重力を振り切り、音を超え、次元を超えて、世界を超えて。
いま自分は、大空を舞う。
この空には敵がいて、敵というのは自分のうちにあるあらゆる意識の具現化されたもので、それは例えば諦観とか、諦めとか、憂鬱とか、足かせとか。
それから、自由への憧れとか。
焦燥を舵取りに、怒りを燃料に。
黒くて大きな翼は、捻れたプライドと恐怖のパラドックス。
二枚の大きな垂直尾翼を斜に構えて、自らの大空を飛び交うバグと幼さに誘導兵器をあてるのだ。

地上のスフィンクス像を穴だらけにし、砂漠の砂をかっさらい、超音速で空の世界にヒビを入れる。

子ども騙しの四つ足多砲塔戦車の対空砲火を軽やかに避け、空を覆うような超巨大爆撃機をバルカンファランクスで焼き尽くす。
地上に隠れたドック入り口に稲妻を走らせて、わらわらと飛んで出てくる自律防衛ロボットをミサイルで吹き飛ばす。
無人対空戦車の群れ。弾幕と弾幕の隙間を抜けて、飛行機雲をふたつ、渦を巻くように旋回しながら切り抜ける。
谷間を抜け、滝をかすめ飛び、しぶきを上げて活火山の山頂へと飛び込んでいく。

そうして出てくる、いつものボス。
人型の、無表情な、機械と装甲がむき出しの、醜い、この世界のボス。
空を飛び、二本足で立って、マグマの上ををスキーのようにかすめさらって縦横無尽に飛び回る超大型の無人機械。
怒りの赤い目。
疑いの緑の目。
何者も信用しない薄青色の目。三色で一つの目となった、トライカメラ。
時として激しく情熱的にパイルバンカーを放ち、時に黒く大きな鉈状の腕を振るい、口から大きな炎を弾幕にして発する。
あらゆるものを拒絶し、何ものも信用せず身体は劣化して錆びついており。
コアは、古く40年以上前に生産中止になった旧式のもの。
それをフルパワーで。
自らを破壊しつつ、自爆も厭わない捨て身のタックルで突っ込んでくる。
避けるだけで精一杯だった。
避けるだけで、精一杯だったんだ。
だけど、もう大人だろう? そろそろ、そんな悪夢を見なくなってもいいと思うんだ。

大人になりきれない子供の頭脳空戦、終わり。

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