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雨のふる世界

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雨のふる世界。
大地は現文明のことごとくを燃やし尽くし、灰にして、そこに生きる文明の主体者たちを皆殺しにした。

生き残ったものたちもいる。
放射能に汚染された水、育たない野菜、太陽は雲に隠れ、大地は凍てつき、泥と汚染物質の攪拌物が厚く堆積してかたまり、にどと生き物たちを育まない。
生き残ったものは皆死んだ。

雨がふった。
泥が流されて海に向かっていく。
雨がやむ。
雨だれがコンクリート片を打ち付ける。
誰もいない世界に、テン、テンと音を残す。
また、雨がふる。
泥が流される。
生き物たちが、生きていた証拠は一切が風化し、砕かれ破片となり、微細化し、海に流される。
雨がやむ。雨だれが、テン、テンと音を鳴らす。
また、雨がふる。

幾度となく繰り返されたのちに、地上に生き物がやってきた。
それはこの世のものとは思えないほど真っ白で、男とも女ともわからない、かつてこの地上を支配していた生き物を完璧なほど模していて、翼が生えていて、美しくて、言葉がわからず、話せず、飛べず、いったい自分はどうしてここにいるのか、なぜここにいるのか、わからない生き物だった。
彼あるいは彼女は、自分が、何もかもが始まりつつある世界にいると漠然と思っていた。
彼、あるいは彼女は、この終わった世界こそが、世界のすべて。
この終わった世界が、自分を育む自分の家であり、自分が生を全うする人生であり、両親であり母であり、父だった。
雨がふる。
彼女は雨宿りをする。
かつて自分が生まれた場所よりほんのちょっと離れた場所で、この世界をかつて支配していたものたちが残した記録物を見つける。
楽しそうな笑顔。楽しそうな仲間。楽しそうな歌。楽しそうな踊り。美しい壮大な街並み。
見覚えのある世界。小さなハンディテレビを通してしか見ることのできない、かつて美しかったであろう自分の生まれ故郷。
もういないし、もうないかつての美しい国。
美しい歌声。踊り。文化と文明。
彼女にあるのは、雨と、泥と堆積したチリやガラクタの山だけ。
彼女にとってここは生まれ故郷だが、おそらく、ここに生きていたものたちにとっては墓場であろうここを。
彼女はこれからも、一人で生きていく。

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